「ジャズファンク」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
K-POPアイドルのキレのあるダンスをイメージする方もいれば、ハービー・ハンコックのようなアーティストが奏でる名曲を連想する方もいるかもしれません。
実は、この言葉は「音楽ジャンル」と「ダンス」という、二つの異なる分野を指すことが多いです。
ダンスレッスンで使われる「ジャズファンク」と、70年代の音楽としてのジャズファンクは、同じ名前でも使われる楽曲がヒップホップやR&Bだったりして、どうつながっているのかわかりにくいと感じるわけです。
この記事では、その二重性をひも解いていきます。
音楽としての歴史や特徴、そしてダンススタイルとしての魅力やK-POPの振付師との関連性まで、それぞれの「ジャズファンク」がどのようなものなのかを、整理して解説していきたいと考えています。
- 音楽ジャンルとしてのジャズファンクの特徴
- ダンススタイルとしてのジャズファンクの魅力
- 音楽とダンス、二つの分野の関連性
- K-POPやヒップホップカルチャーへの影響
音楽ジャンルとしてのジャズファンク

まずは、1970年代に花開いた「音楽」としてのジャズファンクについて掘り下げていきましょう。
ジャズがどのようにファンクやソウルの要素を取り入れ、独自のグルーヴを生み出していったのか。
その定義や歴史的背景、そして現代に与えた影響を見ていきます。
ジャズとファンクの明確な違いとは
ジャズファンクの話題になると、似た言葉である「ファンク」や、もちろん「ジャズ」そのものとの違いが気になりますね。
これらは密接に関連していますが、音楽的な主体がどこにあるかで区別できると考えられます。
- ジャズ(特にビバップ以降)
複雑なコード進行(和音)の上で、高度な即興演奏(インプロヴィゼーション)の技術を追求する側面が強いです。 - ファンク(ジェームス・ブラウンなど)
リズムとグルーヴが主役です。反復する強力な16ビートのリフ(短いフレーズの繰り返し)で、聴衆を踊らせることに重点が置かれています。
では「ジャズファンク」はどうかというと、これはあくまで「ジャズ」が主体であると私は解釈しています。
ファンクの強力なビートやグルーヴ、エレクトリック楽器(フェンダー・ローズなど)のサウンドを取り入れつつも、ジャズ特有の即興演奏のスペースや、洗練されたコード感がしっかりと残されているのが特徴です。
ファンクの「踊れる」要素と、ジャズの「聴かせる」要素が融合したスタイル、というわけですね。
必聴の名盤と代表アーティスト
ジャズファンクの世界に足を踏み入れるなら、まずは「これぞ」という定番を知るのが一番です。
私がよく聴くのは、やはりこのジャンルを形作ったレジェンドたちですね。
例えば、ジャズ・オルガンの巨匠ジミー・スミスの『Root Down』(1972年)は、生々しいライヴのグルーヴが詰まっていて、聴いているだけで体が動き出しそうになります。
また、ヴィブラフォン奏者のロイ・エアーズも外せません。
『Everybody Loves The Sunshine』(1976年)に代表される、メロウで心地よいサウンドは、ジャズファンクが持つ「ソウルフル」な側面を強く感じさせてくれます。
彼は後世のヒップホップにも絶大な影響を与えました。
他にも、強力なホーンセクションが魅力のタワー・オブ・パワーや、サックス奏者のロニー・ロウズなど、個性豊かなアーティストがたくさんいます。
ハービー・ハンコックとドナルド・バード
ジャズファンクを語る上で、どうしても外せない二人の巨人がいます。
ハービー・ハンコックとドナルド・バードです。
ハービー・ハンコックは、ジャズの名門レーベル、ブルーノートなどで活躍した後、1973年に『Head Hunters』という歴史的傑作を生み出します。
このアルバムに収録された「Chameleon」は、シンセサイザーを大胆に導入し、ファンクの強力なビートとジャズが融合した、まさにジャズファンクの象徴的な一曲と言えますね。
一方、トランペット奏者のドナルド・バードも、同じく1973年に『Black Byrd』を発表します。
こちらはミゼル兄弟という敏腕プロデューサーを迎え、より洗練されたメロウなファンク・サウンドを作り上げ、ジャズのアルバムとしては異例の大ヒットを記録しました。
この二人の功績は、ジャズが新しいリスナー層を獲得するための重要な「転換点」を作ったことにある、と私は考えています。
ヒップホップとサンプリングの関係
70年代のジャズファンクが、今でも新鮮に聴こえる理由の一つに、90年代以降のヒップホップカルチャーによる「再発見」が挙げられます。
ヒップホップのプロデューサーたちは、古いレコードから印象的なドラムのビートやメロウなフレーズを抜き出して(サンプリング)、新しい曲の土台として使いました。
その「ネタの宝庫」として、ジャズファンクはまさに最適だったわけです。
なぜなら、ジャズファンクの曲は
- 強力なドラムビート(ブレイク)がある
- メロウなエレクトリック・ピアノのリフが心地よい
- 即興演奏が中心で、ボーカルのない「抜き出しやすい」部分が多い
といった特徴を持っていたからです。
A Tribe Called Questのようなグループがブルーノート・レコードの音源を使ったように、ジャズファンクのメロウな質感は、90年代ヒップホップのサウンドを定義する上で不可欠な要素となりました。
レアグルーヴやアシッドジャズ
ヒップホップによるサンプリング文化と並行して、イギリスのクラブシーンから「レアグルーヴ」というムーブメントが起こりました。
これは、DJたちが埋もれた古いファンクやジャズファンクのレコード(=レアなグルーヴ)を発掘し、フロアでプレイしたことから始まった文化です。
この流れは、やがて「アシッドジャズ」という新しいジャンルを生み出します。
アシッドジャズは、70年代のジャズファンクやソウルの影響を受けつつ、生演奏とクラブミュージックのビートを融合させた、90年代版のジャズファンクとも言えるスタイルでした。
インコグニートやジャミロクワイといったバンドがその代表格ですね。
70年代の音楽が、サンプリングやDJカルチャーを通じて形を変え、新しい世代の音楽として蘇った。
この音楽の循環は、ジャズファンクの遺産がいかに豊かであるかを示していると推測します。
ジャズファンクは、ジャズの長い歴史の中で生まれた一つのスタイルですが、こうした「融合」の歴史はジャズの得意とするところです。
ダンスで注目のジャズファンク

さて、ここからは視点を変えて、もう一つの「ジャズファンク」であるダンススタイルに焦点を当てます。
K-POPのパフォーマンスで目にする機会も多い、このスタイリッシュなダンスはどのようにして生まれ、なぜ今これほどまでに人気を集めているのでしょうか。
ダンスと音楽ジャンルは別物?
これが一番の混乱ポイントかもしれません。
結論から言うと、現代のダンスジャンルとしてのジャズファンクは、「必ずしも70年代の音楽(ハービー・ハンコックなど)で踊るわけではない」という点が重要です。
もちろん、歴史的なルーツは共有していますが、現代のダンスレッスンでは、クリス・ブラウンのようなR&Bや、ビートの明確なヒップホップ、そしてK-POPの楽曲が使われるのが主流です。
ダンスにおける「ファンク」とは、音楽ジャンルそのもの(ファンクミュージック)を指すというよりは、「ファンキーな(ノリの良い、力強い、個性的な)表現」という、動きのスタイルや質感を指す言葉として機能していると理解するのが、私には一番しっくりきました。
つまり、二つは「名前は同じだが、現代における実践は別物」と考えた方がわかりやすいですね。
K-POPを彩る振付師GABEE
現代のジャズファンク・ダンスを語る上で、K-POPの存在は欠かせません。
そして、そのK-POPシーンで活躍する振付師たちが、このスタイルの普及に大きく貢献しています。
その筆頭が、GABEE(ガビ)さんです。
彼女の振付は、ジャズファンクの要素を色濃く反映していると感じます。
例えば、IVEの「After LIKE」では、フレッシュでエネルギッシュながらも、動きの「キレ」が際立っています。
また、チョンハの「Bicycle」では、セクシーさとパワフルさ、複雑なステップが融合しており、ジャズファンクの表現の幅広さを見事に示していますね。
K-POPが求める「視覚的なダイナミズム」と「個性の表現」を両立できるスタイルとして、ジャズファンクは非常にマッチしていると言えそうです。
RIEHATAの振付スタイル
日本が世界に誇るダンサー・振付師として、RIEHATA(リエハタ)さんの名前を挙げないわけにはいきません。
彼女もまた、ジャズファンクをベースに持つとされています。
彼女のスタイルは、ジャズのしなやかさに加え、ヒップホップの強力なグルーヴや「スワッグ」と呼ばれる独特の雰囲気を強く打ち出しているのが特徴です。
例えば、BoAの「Woman」での振付は、楽曲の持つ強いカリスマ性を、大胆でセクシー、かつ力強い動きで見事に表現しています。
GABEEさんとはまた違ったアプローチで、ジャズファンクの持つ「強さ」や「個性」を最大限に引き出している振付師の一人だと私は分析しています。
初心者が使うヒールとスニーカー
ジャズファンクを始めてみたいと思った時、どんな服装や靴を選べばいいか迷いますね。
このジャンルはスタイルが幅広いため、シューズも大きく二つに分かれるようです。
- スニーカー
ヒップホップ要素が強い、力強くスピーディーな振付の場合に選ばれます。動きやすさやクッション性が重視されますね。 - ヒール
女性らしいシルエットやセクシーさを強調する振付(バーレスク要素など)では、ヒールが用いられます。
もしヒールで踊ることに挑戦する場合、いくつか注意点があるようです。
ヒール選びのポイント
- 推奨されるもの
ダンスヒールやラテンダンス用のシューズ。これらは底が薄く柔らかいため、つま先を伸ばしやすく、足のラインが綺麗に見えるのが特徴です。 - 避けるべきもの
いわゆる「厚底」のプラットフォームタイプ。床の感覚がつかみにくく、安定しないためダンスには不向きとされています。
もし始めるなら、最初は安定感のある太いヒールから試すのが良さそうです。
服装やシューズに関する情報は、ダンススタジオの体験レッスンなどで直接アドバイスを求めるのが確実と考えられます。
正確な情報は、専門のインストラクターやダンス用品店にご相談ください。
ジャズダンスとの違いと共通点
ジャズファンクは、その名の通り「ジャズダンス」がベースにあります。
では、従来のジャズダンスとは何が違うのでしょうか。
共通点
どちらもバレエの要素を基礎に持ち、身体のラインやシルエットを美しく見せること、指先まで意識した「伸び」を重視する点は共通しています。
相違点
決定的な違いは、ジャズファンクがヒップホップやファンク由来の「力強さ」「キレ」「ビート感」を強く強調する点にあると推測します。
- ジャズダンス
滑らかさ、しなやかさ、ターンなどのテクニカルな表現が中心。 - ジャズファンク
音をタイトに取る「メリハリ」や、スピード感、そして振付師やダンサーの「個性」がより強く注入されます。
伝統的な「型」がありつつも、そこにストリートの自由な感性を加えたのがジャズファンク、というイメージですね。
ジャズダンス自体も、ジャズの音楽史と共に進化してきました。
時代で進化するジャズファンクの世界

ここまで、二つの「ジャズファンク」について見てきました。
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- ジャズファンクは音楽ジャンルとダンススタイルの二つを指す
- 音楽としてのジャズファンクは1970年代に隆盛
- ジャズを主体にファンクやソウルの要素を融合
- 即興演奏の要素がファンクよりも強い
- エレクトリック楽器の導入がサウンドの特徴
- ハービー・ハンコックの『Head Hunters』が金字塔
- ドナルド・バードの『Black Byrd』も歴史的名盤
- ヒップホップのサンプリングネタの宝庫となった
- ロイ・エアーズは非常に多くサンプリングされた
- レアグルーヴやアシッドジャズの源流でもある
- ダンスとしてのジャズファンクは現代のスタイル
- ジャズダンスのしなやかさとヒップホップのキレを融合
- 使用楽曲は現代のR&BやK-POPが主流
- GABEEやRIEHATAは代表的な振付師
- 音楽もダンスも「融合」と「進化」が共通のキーワード









