ジャズヒップホップとは?音楽とダンスの2つの世界を解説

ジャズヒップホップとは?音楽とダンスの2つの世界を解説

「ジャズヒップホップ」という言葉を聞いたとき、あなたは音楽ジャンルを思い浮かべますか?

それとも、ダンスのスタイルでしょうか?

実は、この言葉はまったく異なる2つの分野を指す、とても興味深いキーワードです。

一方で、A Tribe Called Questなどの洋楽アーティストが作り上げた音楽の歴史があり、そこからNujabesといった日本の才能を経て、現代のLo-Fiシーンへと続く流れがあります。

もう一方では、ダンススクールで人気のスタイルとして、ジャズファンクやガールズヒップホップとはまた違う、独特の表現方法が確立されています。

この記事では、音楽としてのジャズヒップホップのおすすめの名盤や特徴と、ダンスとしてのジャズヒップホップの違いについて、それぞれの世界を分かりやすく解き明かしていきます。

  • 音楽ジャンルとしてのジャズヒップホップの歴史
  • ダンススタイルとしてのジャズヒップホップの特徴
  • NujabesやLo-Fiといった日本のシーンとのつながり
  • ジャズファンクなど類似ダンスとの明確な違い
目次

ジャズヒップホップとは?2つの世界

ジャズヒップホップとは?2つの世界

まずは「音楽」としてのジャズヒップホップの世界から見ていきましょう。

このジャンルがどのように生まれ、どのようなアーティストが活躍し、そして現代のLo-Fi HipHopにどうつながっていったのか。

その歴史と魅力を探っていきます。

音楽としてのジャズヒップホップとは

音楽ジャンルとしてのジャズヒップホップは、一般的に「ジャズラップ(Jazz Rap)」とも呼ばれます。

1980年代の末から90年代初頭にかけて、主にアメリカで生まれたヒップホップのサブジャンルの1つです。

このスタイルの最大の特徴は、サンプリングという手法にあります。

ヒップホップのプロデューサーたちが、古いジャズのレコード、特にジャズ・ファンクやフュージョンから印象的なドラムのビートや、心地よいベースライン、ピアノのフレーズなどを見つけ出し、それをループさせて新しいビートを作り上げました。

また、ラップのスタイル(フロウ)自体も、ジャズの即興演奏が持つ自由なリズム感に影響を受けたと言われています。

従来のラップよりも流動的で、知的なリリックが乗せられることが多かったのも特徴と考えられます。

これは単なるジャンルの融合というより、ヒップホップが自身のルーツであるジャズの持つ「芸術性」や「洗練された雰囲気」を、新しい技術(サンプリング)を使って再発見するプロセスだった、というわけです。

洋楽のジャズヒップホップ

ジャズヒップホップを語る上で欠かせないのが、ニューヨークで生まれた「Native Tongues(ネイティブ・タン)」というアーティスト集団(コレクティブ)です。

彼らは、当時主流だった攻撃的なギャングスタ・ラップとは一線を画し、日常の出来事や内面的な思いを、ユーモアと知性をもってラップしました。

この新しいスタイルに、ジャズのメロウなサンプリングが完璧にマッチしたのです。

この流れを作った代表的なグループには以下のような存在が挙げられます。

A Tribe Called Quest (ATCQ)

Native Tonguesの中核であり、ジャズヒップホップのサウンドを完成させたグループと言えます。

The Low End Theory』(1991年)などの名盤で、ジャズの心地よいベースラインと洗練されたビートをヒップホップのスタンダードに押し上げました。

De La Soul

1989年の『3 Feet High and Rising』は、その独創的なサンプリングセンスとポジティブな雰囲気で、ヒップホップの歴史を変えたとまで言われています。

彼らの功績は、ヒップホップの表現を「ストリートの現実」だけでなく、「個人の内面」にまで広げた点にあると考えられます。

おすすめのジャズヒップホップ名盤

ジャズヒップホップの世界に触れるなら、まず聴いておきたい歴史的な名盤がいくつかあります。

ここでは、サンプリングだけでなく、ジャズミュージシャンと生演奏を行った画期的な作品も紹介します。

Guru: 『Jazzmatazz Vol. 1』(1993年)

Gang StarrのMCであるGuruによるソロプロジェクトです。

これは「ヒップホップとジャズの実験的融合」と銘打たれ、サンプリングに留まらず、ヒップホップのビートの上で、ドナルド・バードやロイ・エアーズといったジャズ界のレジェンドたちが生演奏を繰り広げるという、当時としては非常に画期的な試みでした。

The Pharcyde: 『Bizarre Ride II the Pharcyde』(1992年)

こちらは西海岸(ロサンゼルス)のグループです。

当時の西海岸はギャングスタ・ラップが主流でしたが、彼らは対照的にユーモアあふれるスタイルで登場しました。

ジャズやファンクのサンプルを豊かに重ねたプロダクションは、今聴いても新鮮です。

代表曲「Passin' Me By」はあまりにも有名です。

有名なジャズヒップホップアーティスト

前述のA Tribe Called QuestやGuru以外にも、ジャズヒップホップのシーンを形作った重要なアーティストは数多く存在します。

例えば、Digable Planets(ディガブル・プラネッツ)は、クールなジャズのサンプリングと知的なラップで人気を博しました。

1993年のデビューアルバム『Reachin' (A New Refutation of Time and Space)』は、ジャズヒップホップを代表する1枚です。

また、Guruが所属していたデュオ、Gang Starr(ギャング・スター)も忘れてはいけません。

プロデューサーのDJ Premierが作るジャズネタのビートと、Guruの淡々としたラップの組み合わせは、まさに王道と言えるスタイルです。

個々のアーティストのスタイルを探求するのも、このジャンルの楽しみ方の1つと考えられます。

日本のシーンとNujabes

アメリカで生まれたジャズヒップホップですが、日本においても独自の進化を遂げました。

その中心にいるのが、Nujabes(ヌジャベス)こと瀬葉淳氏です。

彼の音楽は、ジャズのサンプリングをベースにしながらも、アメリカのジャズラップとはひと味違う、独特の「叙情性」や「メランコリックな響き」を持っているのが特徴です。

特にラッパーのShing02と組んだ『Luv(sic)』シリーズは、世界中のリスナーに影響を与え、彼の死後もその人気は拡大し続けています。

また、Nujabesの盟友であったUyama Hiroto氏や、GagleのメンバーであるMitsu the Beats氏が所属するレーベル「Jazzy Sport」なども、日本のジャズヒップホップ・シーンを語る上で欠かせない存在です。

彼らは、ヒップホップの枠を超え、ジャズの持つ「心地よさ」や「哀愁」を深く探求し、日本独自のスタイルを確立したと言えます。

Lo-Fiとジャズヒップホップの関係

最近、勉強や作業用のBGMとして世界的にブームになっている「Lo-Fi HipHop(ローファイ・ヒップホップ)」ですが、実はこのジャンルとジャズヒップホップは非常に深い関係にあります。

結論から言うと、Lo-Fi HipHopのルーツの多くは、Nujabesに代表される日本のジャジーなヒップホップにあると考えられています。

Nujabesは「Lo-Fi HipHopの父」と呼ばれることも多いのです。

両者の違いは、その「聴かれ方」にあると分析できます。

90年代のジャズラップ(ATCQなど)は、ラッパーの歌詞やビートの作り込みを「能動的に聴く」音楽でした。

一方、現代のLo-Fi HipHopは、勉強やリラックスのためのBGMとして「受動的に聴く」ことが前提です。

そのため、ラップ(歌詞)は無いか控えめで、心地よいジャズのループや雰囲気が最重要視されます。

これはジャズヒップホップの「退化」ではなく、Nujabesが持っていた「叙情性」や「心地よさ」の部分が抽出され、現代の視聴環境(YouTubeの24時間配信など)に合わせて「適応進化した」姿だと言えるでしょう。

ダンスとしてのジャズヒップホップ

ダンスとしてのジャズヒップホップ

さて、ここからはもう1つの世界、「ダンス」としてのジャズヒップホップについて解説します。

音楽ジャンルとは異なり、こちらは特に日本のダンススクールで発展したスタイルです。

ジャズダンスをベースにした、他のジャンルとの違いに注目してみましょう。

ジャズヒップホップダンスの特徴

ダンスジャンルとしてのジャズヒップホップは、その名の通り「ジャズダンス」を基礎(ベース)に、「ヒップホップ」の動きを取り入れたスタイルです。

このダンスの核心は、相反する2つの要素を同時にコントロールすることにあると理解できます。

  1. ジャズダンスの要素(軸・引き上げ)
    ジャズダンスはバレエの要素を含んでおり、体を上に「引き上げる」意識や、体幹の「真っ直ぐな軸」を大切にします。
  2. ヒップホップの要素(リズム・重力)
    ヒップホップは、ビートに合わせて「アップ(Up)」や「ダウン(Down)」のリズムを取ることが基本です。地面の重力を感じ、ビートに「乗る」感覚です。

つまり、ジャズヒップホップダンスとは、この「引き上げる力」と「沈む力」という、一見矛盾するような動きを1つの体で表現する、非常にテクニカルなダンススタイルというわけです。

使われる曲も、ヒップホップやR&B、ポップスなど、比較的テンポの速い曲が多い傾向にあります。

ジャズファンクとの違い

ダンススクールでよく混同されがちなのが「ジャズファンク」です。

どちらもジャズダンスがベースにあるため、確かに似ている部分もあります。

両者の違いをあえて言葉にするなら、その「強調点」にあると考えられます。

ジャズヒップホップは、前述の通り「ジャズの軸」と「ヒップホップのリズム(アップ・ダウン)」の融合に重点が置かれます。

一方、ジャズファンクは、ジャズダンスにファンクの要素が加わり、より「ビート感」や「キレ」、スピード感、動きのメリハリを強く意識するスタイルです。

ジャズヒップホップよりも、さらにシャープでパワフルな表現が求められることが多い印象です。

ガールズヒップホップとの違い

「ガールズヒップホップ」も、特に女性に人気の高いジャンルです。

これはジャズヒップホップとはベースが異なります。

ガールズヒップホップは、あくまで「ヒップホップ」がベースです。

そこに、胸や腰を使ったウェーブなど、女性らしいしなやかな体のラインを強調する動きを取り入れたスタイルを指します。

対してジャズヒップホップは、あくまで「ジャズダンス」がベースです。

バレエ由来の軸やターンといったジャズダンスの技術が求められる点で、ガールズヒップホップとは根本的な成り立ちが異なると言えます。

どのジャンルも魅力的なので、ダンススクールの体験レッスンなどで、実際に動きの違いを体感してみるのが一番分かりやすいかもしれません。

ジャズヒップホップの魅力まとめ

ジャズヒップホップの魅力まとめ
  • ジャズヒップホップは音楽とダンスの2つの顔を持つ
  • 音楽ジャンルとしては「ジャズラップ」とも呼ばれる
  • 1980年代末から90年代初頭の米国で誕生した
  • ジャズのレコードをサンプリングしてビートを作るのが特徴
  • ヒップホップが芸術性や知性を探求したムーブメント
  • Native Tonguesという集団がシーンを牽引した
  • A Tribe Called Questは代表的なアーティスト
  • Guruの『Jazzmatazz』は生演奏との融合を実現した名盤
  • 日本ではNujabesが独自の「叙情的な」スタイルを確立
  • Nujabesは「Lo-Fi HipHopの父」と呼ばれる
  • 現代のLo-Fi HipHopは受動的なBGMとして進化した
  • ダンスジャンルはジャズダンスがベース
  • ヒップホップのリズム(アップ・ダウン)を融合
  • 「軸(引き上げ)」と「重力(沈む)」の相反する動きが特徴
  • ジャズファンクはより「キレ」や「スピード感」を重視
  • ガールズヒップホップはヒップホップがベースである点が違う
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