ジャズ・フュージョンに興味を持ち、調べ始めたところでしょうか。
ジャズ・フュージョンとは何か、その定義や歴史を知りたい、あるいはクロスオーバーとの違いが気になるかもしれません。
また、ジャズ・ファンクといったサブジャンルや、ギターやベースが活躍する超絶技巧のアーティストたち、日本独自の和フュージョンの世界も気になるところですね。
しかし、いざ聴こうとすると、何から聴けばよいか、初心者におすすめの名盤や代表曲が分からず戸惑うこともあるかと思います。
この記事では、ジャズ・フュージョンの基本的な知識から、具体的な聴き方まで、私の視点で整理してみました。
- ジャズ・フュージョンの定義と歴史
- ジャンルを代表するアーティストと名盤
- 日本独自の「和フュージョン」の世界
- 初心者でも楽しめるおすすめの聴き方
ジャズ・フュージョンの基本情報

まずは「ジャズ・フュージョン」がどのような音楽なのか、その基本的な定義や歴史的背景について見ていきましょう。
ジャズがどのように他のジャンルと融合していったのか、その流れを知ると聴こえ方も変わってくるかもしれませんね。
ジャズ・フュージョンとは?その定義
「ジャズ・フュージョン」とは、1960年代の終わり頃から1970年代にかけて発展した音楽ジャンルですね。
その名前の通り「融合(Fusion)」がキーワードで、ジャズの即興性やハーモニーをベースにしながら、ロックのパワフルなビート、ファンクのグルーヴ、R&Bのメロディなど、当時のさまざまな音楽を積極的に取り入れたスタイルを指します。
伝統的なジャズがアコースティック楽器中心だったのに対し、フュージョンではエレキギター、エレキベース、シンセサイザーといったエレクトリック楽器が主役になります。
リズムも、ジャズ特有のスウィング(4ビート)から、ロック的な8ビートや16ビートが中心になりました。
この変化は音楽性だけでなく、演奏の場所も変えたと考えられます。
小さなジャズ・クラブから、ロック・バンドと同じような大きなコンサート・ホールへ。
これはジャズ・ミュージシャンが新しい聴衆を獲得するビジネス的な側面もあったと私は推測します。
クロスオーバーとの違いを解説
フュージョンと似た言葉に「クロスオーバー」があります。
この二つは初期にはほぼ同じ意味で使われていたようですが、微妙なニュアンスの違いがあると私は理解しています。
「クロスオーバー」は、ジャズの側からロックやポップスのリスナーに「歩み寄る(Cross Over)」という感覚が強いですね。
ジャズが主体で、他の要素を取り入れるというイメージです。
対して「フュージョン」は、ジャズ、ロック、ファンクといった異なるジャンルが、より対等な立場で混ざり合い、「全く新しいもの」を生み出すという「融合」のニュアンスが強いと感じます。
時代が進むにつれて、より実験的で新しい音楽性を指す言葉として「フュージョン」が定着していったという流れだと考えられますね。
ジャズ・フュージョンの歴史と誕生
フュージョンの歴史を語る上で、マイルス・デイヴィスの存在は欠かせません。
彼が1969年に録音した『ビッチェズ・ブリュー(Bitches Brew)』は、フュージョンのムーブメントを決定づけた「ビッグバン」のようなアルバムだと、私は思っています。
このアルバムには、ツイン・ドラム、ツイン・ベース、トリプル・キーボードという異例の大編成で、後のフュージョン・シーンを牽引するスタープレイヤー(ウェイン・ショーター、チック・コリア、ジョン・マクラフリン、ハービー・ハンコックなど)が勢ぞろいしていました。
マイルスが生み出した「混沌」から、彼らがそれぞれ独自のフュージョン・バンドを結成していくわけです。
ただ、その萌芽は『Bitches Brew』以前にもありました。
例えば、1967年のゲイリー・バートンの『Duster』では、ギタリストのラリー・コリエルが明らかにロック的なアプローチのギターを弾いており、これも重要な始まりの一つと言えます。
ダンス・フロアとジャズ・ファンク
フュージョンの中でも、特にダンス・ミュージックとしての側面を強めたのが「ジャズ・ファンク」です。
1960年代のジャズが、フリー・ジャズやモード・ジャズなど、芸術性や音楽理論を追求して「鑑賞芸術」として少し難解になっていった流れがあったとします。
それに対し、フュージョンは同時代のブラック・ミュージック、特にファンクと結びつきました。
その代表格が、マイルス・バンド出身のハービー・ハンコックです。
彼が1973年に発表した『ヘッド・ハンターズ(Head Hunters)』は、まさにダンス・フロアを意識したエレクトリック・ファンク路線でした。
ジャズ・ファンクは、ジャズが元々持っていた「踊るための音楽」という身体性を、エレクトリック楽器という新しいスタイルで取り戻したという見方もできると私は考えています。
ジャズ・ファンクについては、音楽ジャンルとしてだけでなくダンス・スタイルとしても独自の発展がありますね。
より詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考になるかもしれません。

黄金期を築いた代表アーティスト
1970年代のフュージョン黄金期は、『Bitches Brew』期のマイルス・デイヴィスと、その「マイルス・スクール」の卒業生たちが牽引しました。ここで言う「5大バンド」は次の5つです。
- マイルス・デイヴィス(Miles Davis)
電化以降の革新的なリーダー。中心人物そのもの。 - ウェザー・リポート(Weather Report)
リーダー:ジョー・ザヴィヌル(Key), ウェイン・ショーター(Sax) - リターン・トゥ・フォーエヴァー(Return to Forever, RTF)
リーダー:チック・コリア(Key) - マハヴィシュヌ・オーケストラ(Mahavishnu Orchestra)
リーダー:ジョン・マクラフリン(G) - ヘッドハンターズ(Headhunters)
リーダー:ハービー・ハンコック(Key)
これら5つが、当時のフュージョンの多様性と中心を形づくった代表格です。
必聴!ジャズ・フュージョンの名盤
フュージョンの「5大名盤」と呼ばれる作品群は、それぞれが全く異なる音楽性を持っているのが面白いところです。
- マイルス・デイヴィス『Bitches Brew』(1970)
フュージョンの「ビッグバン」。サイケデリック・ロックやファンクが混沌と融合した、呪術的とも言える壮大なグルーヴ・ミュージックです。 - ハービー・ハンコック『Head Hunters』(1973)
ジャズ・ファンクの金字塔。「Chameleon」の有名なベースライン(実はシンセですが)に象徴される、ダンス・フロア向けの傑作ですね。 - ウェザー・リポート『Heavy Weather』(1977)
フュージョン史上最大級のヒット作。「Birdland」など、ポップでメロディアスな曲が多く、入門にも最適とされています。 - チック・コリア&RTF『Light as a Feather』(1972)
ラテン(ブラジル)音楽の要素が強く、フローラ・プリムのボーカルもフィーチャーした、暖かく詩情豊かなサウンドが特徴です。 - マハヴィシュヌ・オーケストラ『Inner Mounting Flame』(1971)
プログレッシブ・ロックやインド音楽の影響が色濃い作品。メンバー全員の超絶技巧が火花を散らす、圧倒的なエネルギーに満ちています。
これら5枚を聴くだけでも、フュージョンがいかに多様なジャンルだったかがよく分かります。
ジャズ・フュージョンの多様な世界

フュージョンは、アメリカで生まれたムーブメントであると同時に、世界中で独自の進化を遂げました。
ここでは、フュージョンを支えたプレイヤーたちや、日本独自の「和フュージョン」、そして現代へのつながりについて掘り下げてみたいと思います。
超絶技巧のギター奏者たち
フュージョンは、ギタリストが花形となったジャンルでもありますね。
ジャズの複雑なコード理論を理解しつつ、ロックのダイナミクスや表現力でソロを弾きまくるというスタイルが確立されました。
『Bitches Brew』に参加したジョン・マクラフリンはもちろん、ラリー・コリエル、ラリー・カールトン、リー・リトナーといった名手たちが次々と登場しました。
彼らのテクニカルなプレイは、多くの「楽器オタク」的なファンを生み出したとも言われています。
日本からも、高中正義さんのように、テクニックとキャッチーなメロディを両立させたギタリストが登場し、シーンを盛り上げました。
ベースが主役になった革命
フュージョンの歴史を語る上で、個人的に最も大きな「革命」だと感じるのが、ベーシストの役割の変化です。
それまでベースは、リズムと和音の土台を支える「縁の下の力持ち」的な存在でした。
しかし、フュージョンにおいて、ベースは「リード楽器」「ソロ楽器」へと劇的に地位を向上させます。
その最大の功労者は、間違いなくジャコ・パストリアス(ウェザー・リポート)でしょう。
フレットレス・ベースを駆使し、メロディやハーモニクス(倍音)を自在に奏でる彼のスタイルは、ベースという楽器の概念そのものを変えてしまいました。
他にも、スラップ(チョッパー)奏法で有名なスタンリー・クラーク(RTF)や、『Head Hunters』で独特な高音のベースラインを弾いたポール・ジャクソンなど、フュージョンは個性的なベーシストの宝庫ですね。
日本独自の和フュージョン
アメリカのフュージョン・ムーブメントは、ほぼリアルタイムで日本にも伝わり、1970年代後半から80年代にかけて黄金期を迎えます。
そして、単なる模倣ではない、日本独自の「和フュージョン」というシーンが形成されました。
カシオペアとT-SQUARE
その代表格が、カシオペア(Casiopea)とT-SQUARE(THE SQUARE)の二大バンドです。
高い演奏技術と、日本人好みのキャッチーなメロディを両立させた彼らのサウンドは、インストゥルメンタル(歌なし)の音楽としては異例の大ヒットとなりました。
シティポップとの関係
和フュージョンの面白さは、バンドとしての活動だけにとどまりません。
当時のフュージョン・ミュージシャンたちは、松田聖子さんをはじめとするアイドルや、シティポップ系アーティストのバック・バンドやアレンジャーとして、J-POPのサウンド・インフラそのものを支えていたわけです。
「当時のシティポップは、歌を消せばフュージョンになる」と言われることもあるほど、両者は密接な関係にありました。
これが、近年のシティポップ・ブームに伴って、海外で和フュージョンが「Wa-Mono」として再評価される理由の一つになっていると考えられます。
ジャズと日本の関係性については、フュージョン以前から深い歴史があります。
初心者におすすめの聴き方
フュージョンに興味を持った初心者が、まず何から聴くべきか。
これは少し難しい問題かもしれません。
なぜなら、歴史的に最も重要とされるマイルス・デイヴィスの『Bitches Brew』は、正直に言って、かなり実験的で難解な側面もあるからです。
いきなりこれを聴いて「よくわからない…」となってしまう可能性もゼロではありません。
もし「BGMやドライブで聴けるカッコいいインスト音楽が聴きたい」という動機であれば、歴史的な重要作よりも「聴きやすさ」を優先するのが良いと私は思います。
例えば、
- ウェザー・リポート『Heavy Weather』
ポップでメロディアス。入門の最適解とよく言われます。 - チック・コリア『Light as a Feather』
暖かく心地よいサウンド。ボーカル曲もあってBGMにもしやすいですね。 - ハービー・ハンコック『Head Hunters』
ファンクが好きなら理屈抜きにカッコいいグルーヴです。 - カシオペアやT-SQUARE(和フュージョン)
J-POPやゲーム音楽にも通じるメロディのキャッチーさがあり、日本人には馴染みやすいと思います。
まずは、こうした「聴きやすい」作品から入って、徐々に『Bitches Brew』のような実験的な作品に挑戦してみるのが、挫折しないコツかもしれませんね。
ジャズ全体に言えることですが、まずは「聴きやすい」と感じるものから入るのが一番です。

現代に息づくジャズ・フュージョン

この記事で見てきたジャズ・フュージョンのポイントを、最後にまとめてみます。
- ジャズ・フュージョンはジャズを基盤にロックやファンクを融合した音楽
- 1960年代末から70年代に黄金期を迎えた
- アコースティック楽器からエレクトリック楽器が中心になった
- リズムはスウィングから8ビートや16ビートに変化した
- 演奏の場がクラブからコンサート・ホールへ拡大した
- クロスオーバーはジャズ側からの歩み寄りのニュアンス
- フュージョンはより対等な融合を指す傾向がある
- マイルス・デイヴィスの『Bitches Brew』がムーブメントを決定づけた
- マイルス門下生がフュージョンの中心バンドを結成した
- ハービー・ハンコックはジャズ・ファンク路線を確立した
- ウェザー・リポートはフュージョンをポップな領域に広げた
- ジャコ・パストリアスはベースの役割を革命的に変えた
- 日本でもカシオペアやT-SQUAREなどの和フュージョンが発展した
- 和フュージョンはシティポップのサウンドを支えるインフラでもあった
- 初心者は『Heavy Weather』など聴きやすい名盤から入るのがおすすめ









