フリージャズとは?歴史・特徴と名盤まで初心者向けに解説

フリージャズとは?歴史・特徴と名盤まで初心者向けに解説

フリージャズと聞くと、「難しそう」「なんだか混沌としていてうるさい音楽?」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

フリージャズとは何か、その歴史や音楽的な特徴について知りたいと思っても、どこから手をつければよいか迷うこともあるでしょう。

また、代表的な巨匠や、まず聴くべき名盤、初心者向けの聴き方、さらには日本のフリージャズシーンについても気になるところでしょう。

私自身、ジャズの他のジャンルと比べて、最初は少し戸惑いを感じたことがあります。

この記事では、フリージャズというキーワードで検索されている方々が持つそうした疑問に寄り添い、その本質や魅力をできるだけわかりやすく解き明かしていきます。

この記事を読むことで、以下の点について理解を深められます。

  • フリージャズの定義と音楽的な特徴
  • フリージャズが誕生した歴史的背景
  • 代表的な巨匠たちと歴史的名盤
  • 初心者でも楽しめる聴き方のコツ
目次

フリージャズとは?その本質と歴史

フリージャズとは?その本質と歴史

ここでは、フリージャズがどのような音楽であり、どのような背景から生まれ、誰によって牽引されてきたのか、その本質と歴史の概要を見ていきましょう。

フリージャズとは?その定義

フリージャズとは、1950年代後半から1960年代にかけて登場した、前衛的なジャズのスタイルを指します。

その最大の定義は、従来のジャズが持っていた厳格な「ルール」からの解放にあると考えられます。

具体的には、あらかじめ決められたコード進行(ハーモニー)、一定の拍子(メーター)、そして「テーマ→ソロ→テーマ」といった定型的な楽曲構成(フォーム)などの制約を意図的に放棄し、演奏者の即興性と感情表現を最大限に優先するスタイルです。

ただし、これは「無秩序」や「なんでもあり」ということではありません。

従来のルールとは異なる、新しい論理や美学に基づいた、高度に知的な音楽的試みだったと言えるでしょう。

従来のジャズとの決定的な違い

フリージャズがどれほど革新的だったかは、それ以前のジャズと比較すると明確になります。

例えば「ビバップ」は、即興演奏が主体である点は共通していますが、その即興は非常に複雑なコード進行という「設計図」に厳格に縛られていました。

次に登場した「モーダル・ジャズ」は、コード進行の束縛を緩め、「モード(旋法)」というより自由度の高い枠組みを導入しましたが、まだ「枠組み」自体は存在していました。

フリージャズは、そのモーダル・ジャズが残した最後の枠組みさえも取り払い、完全な「自由」へと踏み出したのです。

リズムセクションも一定のビートを刻む役割から解放され、全員が対等に音の対話に参加するようになりました。

音楽的な特徴と即興演奏

フリージャズの音楽的な特徴として最も重要なのが「集団的即興演奏(Collective Improvisation)」です。

従来のジャズが「伴奏の上でソロイストが順番に演奏する」という形式が多かったのに対し、フリージャズではバンドメンバー全員が同時に、互いの音に耳を傾け、反応しながら即興的に音楽を創り上げていきます。

これは「音による対話」とも言え、非常にスリリングな展開が魅力です。

また、サウンド面では、コード進行という調性的な基盤を失った結果、しばしば「アトーナル(無調性)」な響きを持ちます。

サックスを意図的に強く吹いて奇声のような音を出す「オーバーブロウ」や、叫び声に近い「フリーキー」なトーンなど、従来の「美しい音」の概念を拡張するような特殊奏法も多用されました。

フリージャズ誕生の歴史的背景

フリージャズの誕生は、1950年代後半から1960年代のアメリカという時代と分かち難く結びついています。

音楽的には、ビバップやハード・バップのコード進行が極度に複雑化し、ミュージシャンたちが「制限的すぎる」と感じ、ルールからの解放を求める内的な欲求がありました。

社会的には、公民権運動が最も激しかった時代と完全に一致しています。

人種差別構造からの「解放」や社会的な「自由」を求める当時の黒人コミュニティの希求が、音楽における「構造からの解放」を求めるフリージャズの精神と深く共鳴した、と分析するのが自然でしょう。

フリージャズは、まさにその時代の「音」だったと考えられます。

音楽を牽引した代表的な巨匠

フリージャズというジャンルは、特定の統一されたスタイルではなく、むしろ「自由」への異なるアプローチを体現した、偉大なパイオニアたちによって定義されました。

中でも特に重要な「四大巨匠」と呼ばれる人物がいます。

  • オーネット・コールマン
    1960年のアルバム『Free Jazz』で、その名もなきムーブメントに「名前」を与えた先駆者です。プラスチック製のサックスを用い、ピアノレスの編成でハーモニーの束縛から解放されたメロディを追求しました。
  • ジョン・コルトレーン
    ビバップからモーダル・ジャズまで、すべてを極めた巨人が、キャリアの後半にフリージャズの領域に足を踏み入れました。彼のフリージャズは「スピリチュアル(精神的・霊的)」な探求と不可分に結びついていたのが特徴です。
  • セシル・テイラー
    クラシックの現代音楽の素養を持つピアニストです。ピアノを「88のチューニングされたドラム」と見なすかのような、極めて打楽器的な奏法で、高エネルギーかつ知的なフリージャズを展開しました。
  • アルバート・アイラー
    テナーサックスによる、泣き叫ぶような強烈なヴィブラートと、剥き出しの感情表現を特徴とします。彼の演奏は抽象的ながらも、ゴスペルや聖歌といった民俗的なルーツを感じさせるものでした。

これら四者は、「理論」のコールマン、「精神」のコルトレーン、「学術」のテイラー、「感情(原始)」のアイラーと、フリージャズに至る異なる道筋を象徴していると言えるでしょう。

フリージャズの聴き方と後世への影響

フリージャズの聴き方と後世への影響

フリージャズの歴史や特徴がわかったところで、次に「では、どう聴けばよいのか?」という実践的な部分と、この革新的な音楽が後世に何を残したのかについて見ていきましょう。

まず聴くべき歴史的名盤

フリージャズを理解するうえで欠かせない、その概念を定義し、発展させた歴史的なアルバムがいくつかあります。

  1. Ornette Coleman 『The Shape of Jazz to Come』 (1959年)
    タイトル通り「来るべきジャズの形態」を世に問うた、フリージャズの「提案」の書です。ピアノレス編成によるメロディの解放が聴きどころで、特に「Lonely Woman」は叙情性も併せ持っています。
  2. Ornette Coleman Double Quartet 『Free Jazz』 (1960年)
    ジャンル名を決定づけた「マニフェスト(宣言)」です。2つのカルテットが左右のチャンネルで同時に即興演奏を行うという、前代未聞の作品です。
  3. Albert Ayler Trio 『Spiritual Unity』 (1964年)
    アイラーの代表作。サックス、ベース、ドラムのトリオ編成で、フリージャズの「感情の核」を最も純粋な形で抽出したような作品です。
  4. John Coltrane 『Ascension』 (1965年)
    コルトレーンがフリージャズへ「決定的に」移行したことを示す、大編成による爆発的な集団即興演奏です。ジャズ界の巨人の合流は、ムーブメントの頂点(クライマックス)を象徴しています。
  5. Cecil Taylor 『Unit Structures』 (1966年)
    テイラーの「ユニット構造」という理論を体現した作品。高エネルギーな即興の中に、現代音楽的な「知性」と「構造」を感じさせます。

日本のフリージャズとその発展

フリージャズの精神は世界中に伝播しましたが、特に日本は1960年代末から1970年代にかけ、世界でも有数の先鋭的なシーンを生み出しました。

日本のフリージャズは、米国のスピリチュアリティや理論とは異なり、「エネルギーの極限的な発露」や「ノイズ(騒音)の美学」として、より純化・特化させて受容・発展させた点に独自性があると考えられます。

ピアニストの山下洋輔は、セシル・テイラーにも比肩する強烈な打楽器的奏法でヨーロッパに衝撃を与えました。

また、アルト・サックス奏者の阿部薫は、独学でフリージャズを追求し、ヒステリックとも言えるソロ演奏で強烈な個性を放ち、29歳の若さで夭折した後も伝説的な存在となっています。

初心者向けの聴き方と入門盤

フリージャズが「難しい」と感じられるのは、私たちが普段親しんでいる音楽の「心地よいメロディ」や「一定のリズム」といったパターンを意図的に排除しているからです。

フリージャズを聴く鍵は、「期待のシフト」にあると私は考えています。

「完成された楽曲」として受動的に聴くのではなく、「今、この瞬間に起こっている音の対話」として能動的に聴くことが重要です。

メロディラインを追うのではなく、音の質感(テクスチャー)やエネルギーの強弱、ミュージシャンの感情の表出に焦点を当ててみてください。

「サックス奏者の音にドラマーがどう反応したか」といった「プロセス」自体を楽しむわけです。

いきなり過激な作品から入ると挫折しやすいので、入門としては、従来のジャズの要素を残しつつフリージャズの萌芽が感じられる「過渡期」の作品から入るのがおすすめです。

エリック・ドルフィーの『Out to Lunch!』(1964年)や、オーネット・コールマンのメロディが比較的強い曲(「Lonely Woman」など)から試してみてはいかがでしょうか。

ジャズ全体の基本的な聴き方や、初心者向けの名盤については、以下のガイド記事も参考になるかと思います。

後世の音楽への影響

フリージャズは商業的な成功を収めたとは言えませんが、そのラディカルな実験精神は、後世の音楽に絶大な影響を与えました。

皮肉なことに、その「反逆の精神」や「ノイズの受容」といった思想の真の継承者は、ジャズの内部よりも、ロックの最も過激なサブジャンルに見出されます。

1970年代後半にニューヨークで発生した「ノー・ウェイヴ」や、パンク、ノイズロックといったジャンルは、フリージャズの無調性や不協和音から直接的な影響を受けています。

サックス奏者のジョン・ゾーンが率いた「ネイキッド・シティ」のように、フリージャズとパンク(ハードコア)を融合させる「パンク・ジャズ」という試みも生まれました。

フリージャズの遺伝子は、ジャンルの垣根を越えて生き続けているのです。

フリージャズを理解する鍵

フリージャズを理解する鍵

この記事で解説してきた、フリージャズを理解するための重要な鍵を、最後にまとめておきます。

  • フリージャズは1950年代後半から1960年代に登場した前衛的なジャズ
  • 従来のルール(コード進行、拍子、形式)からの解放を特徴とする
  • 「無秩序」ではなく、旧来とは異なる論理に基づく音楽である
  • 音楽的特徴の核心は「集団的即興演奏」にある
  • 全員が同時に、互いに反応しながら即興で音楽を創り上げる
  • アトーナル(無調性)な響きやノイズも音楽的表現として導入された
  • サックスのオーバーブロウなどの特殊奏法も多用された
  • 誕生の背景にはビバップの複雑化への反動があった
  • 公民権運動という社会的な「自由」への希求と時代精神が共鳴した
  • 四大巨匠はオーネット・コールマン、ジョン・コルトレーン、セシル・テイラー、アルバート・アイラー
  • オーネット・コールマンは『Free Jazz』でジャンルを命名した先駆者
  • ジョン・コルトレーンはスピリチュアルな探求と結びつけた
  • セシル・テイラーは打楽器的奏法と知的な構造を持ち込んだ
  • アルバート・アイラーは剥き出しの感情と民俗的ルーツを表現した
  • 鑑賞のポイントは「音の対話(プロセス)」を聴くこと
  • 後世のパンクやノイズロックにも多大な影響を与えた
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