ジャズギターと聞くと、なんだか敷居が高く感じるかもしれませんね。
独特の甘い音色に憧れはあるものの、ジャズギターとは具体的に何を指すのか、初心者としてどんな機材、例えばフルアコやセミアコを選べばよいのか、アンプや弦、ピックはどう違うのかと、悩むことも多いと思います。
また、練習を始めるにしても、どんな有名ギタリストを参考にし、どういった練習法でスタンダード曲に取り組めばよいのかと、情報が多くて迷ってしまいますね。
私自身、その魅力的でありながらも奥深い世界に一歩踏み出すのに、少し勇気がいりました。
この記事では、そんなジャズギターに関する基本的な知識から、機材選びのポイント、そして初心者が取り組むべき練習法まで、順を追って整理していきます。
- ジャズギターの基本的な定義と機材の種類
- アンプや弦、ピックが音色に与える影響
- ジャズギターの練習を始めるためのステップ
- 学習に役立つ定番曲や有名ギタリスト
ジャズギターの世界と機材選び

ジャズギターの魅力は、その独特な「甘いトーン」にあります。
しかし、そのサウンドはギター本体だけでなく、アンプや弦、ピックといった機材の組み合わせによって作られています。
まずは、ジャズギターとは何か、そしてそのサウンドを形成する機材にはどのような選択肢があるのかを見ていきましょう。
ジャズギターとは?定義と役割
「ジャズギター」という言葉には、実は2つの意味があります。
1つはジャズを演奏するための「演奏テクニック」、もう1つはその演奏に適した「ギターの種類」です。
ジャズアンサンブルの中で、ギタリストは主に2つの役割を担います。
ソロ(アドリブ)
1つは、メロディラインを即興で演奏する「ソロ」の役割です。
歴史的には、チャーリー・クリスチャンがエレクトリック・ギター(エレキギター)を用いたことで、ギターは管楽器と対等に渡り合えるソロ楽器としての地位を確立しました。
バッキング(伴奏)
もう1つの重要な役割が、他のソリストを支える「バッキング(伴奏)」です。
これは単にコードをかき鳴らすのではなく、「コンピング (Comping)」と呼ばれる、対話的で高度な技術が求められます。
コンピングは、ソロイストのフレーズに応答したり、あえて休符を使ったりすることで、演奏全体に緊張感と一体感を生み出します。
この二元的な役割をこなすために、ジャズギターの機材や奏法は進化してきたわけです。
王道のフルアコ、万能なセミアコ
ジャズギターと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、ボディに厚みのある「アーチトップ」のギターではないでしょうか。
これらは主に3種類に分類されます。
1. フルアコースティック(フルアコ)
ボディ内部が完全に空洞になっている構造のギターです。
海外では「ホロウボディ」と呼ばれます。
- サウンド
ボディの空洞が生み出す「エアー感」があり、中低域が豊かな「甘いトーン」が特徴です。まさにジャズの王道サウンドと言えますね。 - 弱点
ボディが空洞であるため、アンプの音量を上げると「ハウリング(フィードバック)」というノイズが発生しやすいという大きな弱点があります。
代表的なモデルとしては、ギブソンのES-175やL-5などが挙げられます。
2. セミアコースティック(セミアコ)
フルアコの弱点であるハウリングを軽減するために開発された構造です。
ボディ内部の中央に「センターブロック」と呼ばれる木製のブロックが貫通しています。
- サウンド
フルアコのようなエアー感を持ちつつ、センターブロックのおかげでソリッドギターのような芯のあるサウンドとサスティン(音の伸び)を両立しています。 - 特徴
ハウリングに格段に強いため、ジャズだけでなくブルースやロックなど、より幅広いジャンルで使用されます。ギブソンのES-335が代表的ですね。
3. ソリッドギター
ボディ内部に空洞を持たない、一枚板(または複数の板)で構成されたギターです。
フェンダー社のテレキャスターなどが代表です。
伝統的なジャズでは少数派でしたが、圧倒的なハウリング耐性を持つため、大音量が求められる現代のフュージョン系のギタリストなどが使用することも増えています。
演奏する環境(音量)によって、最適なギターの選択も変わってくるというわけです。
音色を決めるアンプの選び方
ジャズギターのサウンドにおいて、アンプ選びはギター本体と同じくらい重要です。
ロックギタリストが「歪み」を求めるのとは対照的に、ジャズではギター本体の持つトーンを忠実に増幅する「クリーンな音質」と「音の太さ」が求められます。
定番モデル:Roland JC-120
日本のリハーサルスタジオやライブハウスには、ほぼ必ずと言っていいほど設置されている定番アンプです。
その透き通るようなクリーンサウンドはジャズにも非常に適しています。
フルアコを接続する場合は、LOWインプットを使い、MIDDLEとBASSを抑えめ、TREBLEをやや上げるセッティングにすると、甘いトーンを作りやすいと言われていますね。
現代の選択肢:ZT Amp Lunchbox
近年、私が注目しているのが、ZT Ampのような小型軽量・高音質なアンプです。
持ち運びが容易でありながら、目を瞑って聴くと、小型アンプとは思えないような太いジャズトーンが出せると評価されています。
電車移動が多い都市部のギタリストにとっては、非常に合理的な選択肢と言えるでしょう。
伝統のフラットワウンド弦とは
ジャズ特有の「甘く」「メロウな」トーンを作る上で、弦の選択も欠かせません。
フラットワウンド弦
ジャズギターの伝統的な選択肢が「フラットワウンド」弦です。
巻弦の表面が帯状の金属で滑らかに巻かれており、手触りが「つるつる」しています。
- サウンド
高域が抑えられた、いわゆる「モコモコした音」になります。サスティン(音の伸び)が短く、メロウな響きが特徴です。 - 特徴
ピックが弦に当たるノイズや、指が弦を擦る「フィンガーノイズ」が非常に少ないため、クリアなトーンが得られます。
ラウンドワウンド弦
一方、一般的なエレキギターに使われるのは「ラウンドワウンド」弦で、表面が凹凸しています。
こちらはブライトで明瞭なサウンドが特徴です。
また、ジャズギタリストは一般的に「太い弦」(.011や.012ゲージなど)を使用する傾向があります。
これは、太い弦の方が音質が豊かになるためです。
ロックやブルースのように弦を押し上げる「ベンド(チョーキング)」を多用しないジャズの奏法だからこそ、張力(テンション)が強い太い弦が扱えるとも言えますね。
厚めのピックが好まれる理由
弦と並んで見落とされがちですが、ピックもトーンに直結する重要な要素です。
ジャズギタリストは、アタック感と細かなコントロール性を重視し、「厚くて硬い」ピックを好む傾向にあります。
特に「JAZZ III (ジャズ・スリー)」と呼ばれる、ティアドロップ型をさらに小さくし、先端を尖らせた形状が非常に人気があります。
なぜ厚く硬いピックが選ばれるのでしょうか。
それは、前述した「太いフラットワウンド弦」と密接に関係しています。
張力が強く、抵抗の大きい太い弦を鳴らしきるには、薄いピックでは力が逃げてしまい、不明瞭なアタックになってしまいます。
弦の抵抗に負けずにしっかりと弾き切り、一音一音を正確にコントロールするために、厚く硬いピックが必然的に選ばれるという、非常に合理的な「システム」になっているわけです。
ジャズギターの始め方と練習法

機材が揃ったら、いよいよ練習のステップに進みます。
ジャズは理論が難解に思われがちですが、適切な順序で学習を進めることが大切です。
ここでは、お手本となるギタリストや、具体的な練習ステップについて見ていきましょう。
参考にしたい有名ギタリスト
ジャズギターのスタイルは、多くの革新的なギタリストたちによって築き上げられてきました。
チャーリー・クリスチャン
エレクトリック・ギターをソロ楽器として確立した、まさにパイオニアです。
彼なくして、現代のジャズギターはなかったかもしれません。
ジャンゴ・ラインハルト
ヨーロッパで独自の「ジプシー・ジャズ」を確立したギタリストです。
生涯アコースティックギターを使用し、その情熱的な演奏は今も多くの人を魅了しています。
ウェス・モンゴメリー
彼のスタイルは非常に個性的です。
ピックを使わず「親指」で弾くことで、アタックが柔らかく非常に甘い音色を生み出しました。
また、彼の代名詞とも言えるのが「オクターブ奏法」です。
1オクターブ離れた2つの音を同時に弾き、間の弦を正確にミュート(消音)する高度なテクニックで、メロディラインを際立たせます。
現代のギタリスト
ギラッド・ヘクセルマンやアダム・ロジャースなど、現代のギタリストたちは、ジャズの伝統を踏まえつつ、他ジャンルの要素や新しい奏法を取り入れ、スタイルを革新し続けています。
初心者におすすめの教則本
独学でジャズギターを学ぶには、優れた教則本が大きな助けとなります。
教則本の選び方
例えば、『目からウロコのジャズ・ギター【入門編】』(菅野義孝 著)のように、難しい理論は後回しにして、まずはジャズらしいフレーズを弾くことに特化したものもあります。
一方で、『3年後、確実にジャズ・ギターが弾ける練習法』(宇田大志 著)のように、スケールやハーモニーを体系的に学ぶことを目的とした本もあります。
自分の性格や学習スタイルに合った一冊を選ぶことが重要ですね。
初心者向けの機材について
ジャズを始めるために、高価なヴィンテージのフルアコを最初から用意する必要は全くありません。
例えば、Ibanez(アイバニーズ)やEpiphone(エピフォン)、YAMAHA(ヤマハ)といったブランドは、5万円~10万円程度の予算でも、ジャズの学習に適したセミアコなどを提供しています。
練習に最適な定番曲リスト
ジャズの理論を学ぶ上で、スタンダード曲以上に優れた教材はありません。
ジャズの「語彙(ボキャブラリー)」や「文法(コード進行)」が詰まっています。
- Autumn Leaves (枯葉)
ジャズの最重要進行である「II-V-I(ツーファイブワン)」を学ぶための完璧な教材と言われています。 - Blue Bossa (ブルー・ボッサ)
シンプルな構成ながら、メジャーキーとマイナーキーのII-V-Iが登場し、モード(音階)を切り替える練習に最適です。 - Fly Me To The Moon
コード進行が比較的シンプルで、メジャースケールだけでアドリブする練習にも適しています。 - ジャズ・ブルース (Bags' Grooveなど)
通常のブルース進行に、ジャズ的なコード進行を加えた形式です。ブルースに慣れている人がジャズに移行する際にもよい練習になりますね。
ジャズの定番曲をもっと知りたい、あるいは聴いてみたいという方は、こちらの記事でジャズの名曲をシーン別に紹介していますので、参考にしてみてください。

独学のための練習ステップ
ジャズギター初心者が何から手をつけるべきか、そのステップを整理します。
ステップ1:メジャースケールを極める
アドリブのすべての土台となります。
まずは弾きやすいポジションを1つ覚え、それを12キーすべてで弾けるようにすることが不可欠です。
ジャズは頻繁に転調(キーが変わる)するためですね。
ステップ2:3和音コードでバッキングする
派手なソロよりも、まずは安定したバッキング(伴奏)ができることの方がセッションでは重要視されます。
まずは、ベース音とぶつかりにくい「3度」と「7度」の音を中心にコードを組み立てる「3ノート・ボイシング」をマスターしましょう。
音が少ない分、響きがクリアになります。
ステップ3:ロストせずに最後まで弾き切る
これは初心者にとって最も重要かつ困難なスキルかもしれません。
アドリブの途中で「今、コード進行のどこを弾いているか」を見失うこと(=ロストする)を防ぐため、常にコード進行を頭の中で追い続ける練習が必要です。
魅力的なジャズギターの世界

ここまで、ジャズギターの機材から練習法まで、その世界の入り口をご紹介してきました。
この記事の重要なポイントを最後にまとめます。
- ジャズギターは演奏テクニックと楽器の種類の両方を指す
- 主な役割はソロ(アドリブ)とバッキング(コンピング)
- チャーリー・クリスチャンのエレクトリック化がソロ楽器への道を開いた
- ギターの種類は大きくフルアコ、セミアコ、ソリッドに分類される
- フルアコは甘いトーンが魅力だがハウリングに弱い
- セミアコはセンターブロックによりハウリング耐性と芯のある音を両立
- ジャズのアンプはクリーンな音質と音の太さが重要
- Roland JC-120はスタジオの定番アンプ
- 伝統的な弦は表面が滑らかなフラットワウンド
- フラットワウンド弦はノイズが少なくメロウな音色
- ジャズでは太いゲージの弦が好まれる傾向がある
- ピックは厚く硬いJAZZ III型などが人気
- 太い弦を弾き切るために厚いピックが合理的な選択となる
- ウェス・モンゴメリーは親指弾きとオクターブ奏法で有名
- 初心者はまずメジャースケールを12キーで練習する
- バッキングは3ノート・ボイシングから始める
- 練習曲は「枯葉」や「Blue Bossa」などのスタンダード曲が最適
- アドリブ中はコード進行を見失わない(ロストしない)練習が重要









