ジャズやブルースを聴いていると、「この2つは似ているな」と感じることがよくありますね。
私も聴き始めた頃は、ジャズとブルースの違いが明確にわかりませんでした。
どちらもアメリカ南部で生まれ、深い歴史を持ち、お互いに影響を与え合ってきた音楽ですから、似ている部分が多いのも当然と言えます。
しかし、よく聴き比べてみると、その構造や表現にははっきりとした違いが存在するわけです。
例えば、使われるコード進行のパターンやリズムの取り方、さらにはアドリブのアプローチにもそれぞれの特徴が見られます。
この記事では、ジャズとブルースの基本的な関係性から、その決定的な違い、それぞれの歴史的背景、そして聴き分けのポイントまで、私なりの視点でまとめてみました。
また、これから聴いてみたいという方のために、代表的な有名曲や、ギターやピアノでの演奏における違いについても触れていきます。
- ジャズとブルースの根本的な違いがわかる
- 二つの音楽が持つ歴史的なつながりを理解できる
- コード進行やリズムでの聴き分け方を学べる
- 演奏や有名曲から両者の魅力を再発見できる
ジャズとブルースの基本的な関係性

ジャズとブルースは、どちらもアフリカ系アメリカ人の音楽文化から生まれ、密接に関連しながら発展してきました。
ここでは、似ているようで異なる二つの音楽の、基本的な関係性や決定的な違いについて掘り下げていきますね。
ジャズとブルースの決定的な違い
ジャズとブルースの最も大きな違いは、その「形式」と「ハーモニー(和声)」にあると私は考えています。
ブルースは、基本的にブルース進行(ブルース・フォーム)と呼ばれるシンプルな12小節のコード進行パターンを繰り返すことが多いのが特徴です。
歌詞も、AAB形式(同じフレーズを2回繰り返し、最後に異なるフレーズで締める)が伝統的ですね。
感情を直接的に表現する、土着的な力強さがあります。
一方、ジャズはブルースをルーツに持ちながらも、より複雑なハーモニーと即興演奏を追求して発展しました。
ブルース進行を使うこともありますが、それ以外にも多様なコード進行(例えば、スタンダード曲のコード進行など)を用います。
ジャズは、ハーモニーの洗練度や、演奏者の高度な技術と創造性が際立つ音楽と言えるでしょう。
簡単に言えば、ブルースは「型(フォーム)の中での感情表現」、ジャズは「型を土台にした自由な音楽的探求」という側面に、それぞれの重点があると考えられます。
似ているが異なる歴史的背景
どちらも19世紀末から20世紀初頭のアメリカ南部、特にミシシッピ・デルタ地帯やニューオーリンズで、アフリカ系アメリカ人のコミュニティから生まれました。
この共通のルーツこそが、二つの音楽が「似ている」と感じられる最大の理由ですね。
ブルースは、労働歌(ワーク・ソング)やフィールド・ハラー(野良仕事での叫び声)、スピリチュアル(黒人霊歌)などから発展し、個人の苦悩や日常を歌う音楽として定着しました。
デルタ・ブルースのようなアコースティック・ギター弾き語りスタイルが初期の形です。
ジャズは、ニューオーリンズでブルース、ラグタイム、マーチングバンドの音楽、クレオールの音楽などが融合して生まれたと考えられています。
初期のジャズ(ディキシーランド・ジャズ)は、集団的な即興演奏が特徴でした。
つまり、ブルースがジャズの「親」や「土壌」のような存在であり、ジャズはブルースという豊かな土壌から芽生え、さらに多様な音楽要素を取り込んで独自の発展を遂げた、という関係性と推測します。
ジャズがどのようにしてニューオーリンズで生まれたのか、その起源についてもっと詳しく知りたい場合は、こちらの記事も参考になるかもしれません。

リズムで聴き分けるポイント
リズムも聴き分ける重要なポイントです。
ブルースは、しばしば「シャッフル・リズム」と呼ばれる跳ねたリズムが特徴的です。
言葉で表現するのは難しいですが、「タッカタッカ」というような、弾むような感覚ですね。
非常に力強く、踊りやすいリズムと言えます。
一方、ジャズで最も特徴的なのは「スウィング」のリズムです。
これも跳ねたリズムですが、ブルースのシャッフルよりも洗練され、浮遊感があるのが特徴です。
独特の「ノリ」を生み出しています。
また、ジャズ、特にモダン・ジャズ以降は、スウィングだけでなく、ラテン・リズム(ボサノバなど)やファンク、さらにはイーブンな8分音符(ロックやポップスに近い)など、多様なリズム・スタイルを取り入れています。
リズムの「ノリ」の違いに耳を傾けると、両者の区別がつきやすくなるはずです。
ジャズの心臓部とも言えるスウィング・リズムについて、その秘密をもっと深く知りたい方は、こちらの記事も役立つでしょう。

歌と楽器の役割の違い
歌(ヴォーカル)と楽器の役割にも違いが見られますね。
ブルースは「歌」が中心にある音楽です。
歌詞で物語を語り、感情を吐露することが非常に重要視されます。
ギターやハーモニカといった楽器は、その歌を支えたり、歌の合間に応答(コール・アンド・レスポンス)したりする役割が強いです。
ジャズは、初期こそ歌が中心の曲も多かったですが、発展するにつれて「楽器」による即興演奏(アドリブ)が中心的な要素となりました。
ヴォーカルも楽器の一つとして扱われ、歌詞を歌うだけでなく、意味のない音節で即興的に歌う「スキャット」という技法も生まれました。
ブルースでは楽器が「歌に寄り添う」のに対し、ジャズでは「楽器(や歌)が主役となって自由にメロディを奏でる」という側面に違いがあると考えられます。
ブルースのコード進行とは
ブルースを特徴づける最も重要な要素が「ブルース進行(ブルース・フォーム)」です。
これは非常に強力な型であり、多くのブルース曲、さらにはロックンロールやジャズの曲にも使われています。
最も基本的なのは「12小節」のパターンです。
これを「スリーコード(主要三和音)」、具体的にはI(トニック)、IV(サブドミナント)、V(ドミナント)という3つのコードを使って構成します。
例えば、キーがCの場合、I=C、IV=F、V=Gとなります。
基本的な12小節のブルース進行は以下のようになりますね(1行が4小節)。
C | C | C | C
F | F | C | C
G | F | C | G
このシンプルな進行の上で、ブルーノートと呼ばれるブルース特有の音階(メジャースケールの3度、5度、7度を半音下げた音)を使うことで、あの独特の哀愁や泥臭さが生まれるわけです。
ジャズ特有のコード進行
ジャズもブルース進行を使いますが(ジャズ・ブルースと呼ばれます)、多くの場合、より複雑なコードが加えられます。
ジャズでは、ブルースのスリーコードに加えて、「セブンス・コード(7th)」や「ナインス・コード(9th)」などのテンション・コードが多用されます。
これにより、響きがより洗練され、複雑になります。
また、ジャズのスタンダード曲では、「ツー・ファイブ・ワン(II-V-I)」進行が非常に多く使われます。
これは、特定のキーに向かって解決する強い進行感を生み出すもので、ジャズのハーモニーの根幹とも言えます。
例えば、キーCの場合、Dm7 (II) → G7 (V) → CM7 (I) という流れです。
ブルースが比較的シンプルなコード進行を反復するのに対し、ジャズは曲の中で頻繁にキーが変わったり(転調)、複雑なコード進行が展開されたりするのが特徴です。
ジャズとブルースを演奏する魅力

理屈がわかってくると、今度は自分で演奏してみたくなるのも、ジャズやブルースの魅力ですね。
ここでは、ギターやピアノといった楽器での表現の違いや、アドリブの考え方、そしてまず聴いておきたい有名曲について見ていきましょう。
ギターで弾くときのコツ
ギターでブルースを弾く場合、チョーキング(弦を押し上げて音程を変える)やビブラートを多用し、感情をむき出しにするような表現が好まれます。
リズムも、前述のシャッフル・リズムを意識することが多いですね。
ペンタトニック・スケール(5音音階)にブルーノートを加えたスケールが基本となります。
一方、ジャズ・ギターは、ブルース的な表現も使いつつ、より複雑なコード・ヴォイシング(和音の押さえ方)や、多様なスケール(ドリアン、ミクソリディアンなど)を使った滑らかなフレーズが求められます。
ピッキングも、ブルースのように力強く弾くよりは、クリアでメロウなトーンを出すことが多いと考えられます。
ピアノでの表現の違い
ピアノの場合も、アプローチは異なります。
ブルース・ピアノは、左手で力強いベースラインやシャッフルのリズムを刻み(ブギウギ・スタイルなど)、右手でブルーノートを使ったリフ(短いフレーズの反復)やメロディを弾くことが多いです。
非常にリズミカルで打楽器的な側面が強いですね。
ジャズ・ピアノは、ハーモニーの豊かさが特徴です。
左手で複雑なコード・ヴォイシング(テンションを含む)を弾き、右手でアドリブ・ソロを展開します。
ブルースに比べて、より広範な音楽理論と高度なテクニックが要求される傾向にあると言えます。
アドリブ・ソロの考え方
アドリブ(即興演奏)は、ブルースにとってもジャズにとっても重要ですが、その「考え方」が少し異なります。
ブルースのアドリブは、多くの場合、ブルース・スケール(ペンタトニック+ブルーノート)を基盤にし、決められたコード進行(12小節フォーム)の中で、いかに感情豊かに「歌う」かが重視されます。
フレーズ自体は比較的シンプルでも、その「間(ま)」や「ニュアンス」が命です。
ジャズのアドリブは、より理論的・構造的です。
コード進行の各コードに対して、どのスケールが使えるか(コード・スケール理論)を考えながらフレーズを構築していきます。
ブルースよりも多くの音を使い、複雑なパッセージを演奏することも多いですね。
もちろん感情も重要ですが、ハーモニーとの調和や音楽的な展開がより強く意識されると考えられます。
まず聴きたい有名曲5選
言葉で違いを理解するよりも、実際に聴き比べるのが一番ですね。
ここでは、私が独断で選んだ「ブルースらしさがわかる曲」と「ジャズらしさがわかる曲」をいくつか紹介します。
ブルースの名曲
- 『Sweet Home Chicago』 / ロバート・ジョンソン
デルタ・ブルースの代表曲。アコースティック・ギターと歌だけのシンプルな構成に、ブルースの魂が凝縮されています。 - 『The Thrill Is Gone』 / B.B.キング
エレクトリック・ブルースの王様。泣きのギターとブルース進行の典型がよくわかります。
ジャズの名曲(ブルースの影響を感じる曲)
- 『So What』 / マイルス・デイヴィス
モード・ジャズの幕開けとなった曲。シンプルなコード進行の上で、各奏者が自由にアドリブを繰り広げます。 - 『Take the 'A' Train』 / デューク・エリントン
スウィング・ジャズの代表曲。ビッグバンドによる華やかなアンサンブルと、スウィングのリズムが特徴です。
ジャズ・ブルースの名曲
- 『Blue Monk』 / セロニアス・モンク
ジャズ・ピアニストによるブルース曲。ブルース進行を使いながらも、ジャズ特有の不協和音やユニークなメロディが光ります。
奥深いジャズとブルースの世界

- ジャズとブルースはアメリカ南部で生まれた兄弟のような音楽
- ブルースはジャズのルーツの一つ
- ブルースは感情の直接的な表現
- ジャズはハーモニーと即興性の探求
- ブルースはシンプルな12小節のコード進行が基本
- ジャズはブルース進行も使うが、より複雑なコード進行が多い
- ツー・ファイブ・ワンはジャズ特有の進行
- ブルースはシャッフル・リズムが特徴
- ジャズはスウィングのリズムが基本
- ブルースは「歌」が中心
- ジャズは「楽器」によるアドリブが中心
- ブルースのアドリブはブルース・スケールが基本
- ジャズのアドリブはコード・スケール理論を意識
- 聴き比べると違いと共通点がよくわかる
- どちらも知ることでジャズ・ブルースの楽しみが広がる










