「Amazing Grace」をジャズ風に弾こうとして、最初から複雑なテンションや代理コードを加えると、よく知られた旋律の素朴さが見えなくなることがあります。この曲のリハーモナイズで大切なのは、原曲のI・IV・Vによる明快な流れを聞き取り、メロディーの長い音を確認しながら、7th、ii–V、経過コードを一段ずつ加えることです。
一般に「Amazing Grace」と結び付いている旋律名は「NEW BRITAIN」で、FメジャーやGメジャーなど多くのキーで歌われます。本記事ではピアノやギターで扱いやすいFメジャー、16小節、3/4拍子の実用的な骨格を基準にします。賛美歌集、歌唱者、演奏慣習によってリズムや和声は異なるため、特定の現代編曲を再現するのではなく、自分で自然なジャズアレンジを作る方法を解説します。
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- Fメジャーで確認する16小節の基本進行
- 三和音を7thや6thへ広げるときの判断基準
- ii–V、セカンダリー・ドミナント、ディミニッシュの加え方
- メロディーを守りながら伴奏とソロを展開する手順
原曲の骨格を確認する
リハーモナイズの前に、メロディーだけ、ルートだけ、I・IV・Vだけで一度通します。どこが安定し、どこが緊張し、どこで次の句へ進むかを耳で把握します。
旋律と拍子を揃える
「NEW BRITAIN」は3/4で記譜されることが多く、一小節に四分音符が3拍あります。ジャズワルツにする場合も、1拍目だけを重くして2・3拍目を機械的に弱くするのではなく、3拍が次の小節へ流れる感覚を保ちます。
歌では音を伸ばしたり、装飾音を加えたり、フレーズの入口を遅らせたりすることがあります。伴奏者は譜面上のメロディーだけでなく、実際の歌唱やリード奏者の呼吸を聞きます。コードチェンジを増やすほど、旋律の自由を狭める可能性があるためです。
Fメジャーの基本コード
最小限の和声はF、Bフラット、C7です。機能ではI、IV、V7になります。Fはホーム、Bフラットは外へ開く下属和音、C7はFへ戻す属和音です。
実用的な16小節のガイドを、まず次のように整理できます。これは唯一の正解ではなく、リハーモナイズ前の比較用です。
| F | F7 | B♭ | F |
| F | F/A | C | C7 |
| F | F7/A | B♭ | F |
| F/E | Dm | F/C C7 | F |
より素朴にするなら、F7、F/A、F7/A、F/E、F/CをFへ戻し、F・Bフラット・C7だけで演奏できます。分数コードは、上の和音を保ちながらベースだけを動かす記号です。F/AならF和音の下にA、F/EならF和音の下にEを置きます。
メロディー音を先に書く
各小節の長く伸びる旋律音をコード譜の上へ書きます。候補コードにその音が含まれるか、テンションとして自然か、強い摩擦になるかを確認します。
たとえばメロディーがAのとき、F上では3度、Bフラットmaj7上では長7度、Gm7上では9thです。どれも使えますが、響きの性格が違います。長いAに対してAフラットを含むコードを置けば半音で強くぶつかるため、意図がなければ避けます。
リハーモナイズは「使えるコードを探す作業」ではなく、「この旋律音をどの役割で聞かせたいかを選ぶ作業」と考えてください。
演奏したい曲の楽譜を探す
実際に演奏してみたい曲が見つかったら、自分の楽器やレベルに合った楽譜を探してみましょう。同じ曲でも編成や難易度、アレンジが異なるため、内容を確認して選ぶことが大切です。
三和音をジャズ化する
最初の段階ではコードの根音と機能を変えず、三和音へ6th、7th、9thを加えます。進行の骨格を保ったまま、ジャズらしい色を作れます。
FをF6またはFmaj7にする
F6の構成音はF–A–C–D、Fmaj7はF–A–C–Eです。F6は温かく開いた響き、Fmaj7はEとFの半音関係による繊細な響きを持ちます。
メロディーがFを長く伸ばす場所でFmaj7を低い位置に密集させると、EとFが強くぶつかります。衝突を柔らかくしたいならF6、またはFmaj9を広い配置で使います。Fmaj9はGも加わり、メロディーがGなら9thとして自然です。
曲頭をF6で始め、最後だけFmaj7またはF6/9にするなど、同じIでも位置によって色を変えられます。
BフラットをB♭maj7へ
Bフラットmaj7はBフラット–D–F–Aです。メロディーにAがある場合、長7度として美しく響きます。一方、旋律がBフラットを伸ばすと、内声Aとの半音が目立ちます。ボイシングの音域を離すか、Bフラット6へ変える方法があります。
Bフラット6はBフラット–D–F–Gです。GはFメジャー内の音で、次のFへ進むときFへ下行できます。
C7に9thや13thを加える
C7の核はC–E–G–Bフラットです。9thのD、13thのAを加えるとC9、C13になります。Fへ解決すると、EはFへ半音上がり、BフラットはAへ半音下がります。
C13ではAが次のFにも共通するため、滑らかな終止になります。C7♭9のDフラットを使うと緊張が強くなり、FのCまたはDへ半音解決できます。曲の穏やかさを保つなら、最初のコーラスではC9またはC13、後半だけC7♭9にする方法があります。
| 基本コード | 最初の拡張 | 響き | 確認する旋律音 |
|---|---|---|---|
| F | F6、Fmaj7、Fmaj9 | 安定と余韻 | FとE、Gとの関係 |
| B♭ | B♭6、B♭maj7 | 広がり | B♭とAの半音 |
| C7 | C9、C13、C7♭9 | 緊張と解決 | D、A、D♭との関係 |
| Dm | Dm7、Dm9 | 相対短調の陰影 | Eを9thとして使うか |

ii–Vを加える
目的地の前に、そのコードへ向かうii–Vを置くと、和声に流れが生まれます。すべての小節へ加えず、長く保たれる到着点やフレーズの境目を選びます。
Fへ向かうGm7–C7
Fメジャーのii–V–IはGm7–C7–Fです。最後のC7だけが書かれている場所を、2拍または1小節前からGm7へ分けられます。
| Gm7 | C7 | F6 | F6 |
Gm7の3度Bフラットと7度F、C7の3度Eと7度Bフラット、Fの3度Aを追います。BフラットはGm7からC7へ残り、C7からFでAへ下がります。FはGm7からC7のEへ半音下がり、最後にFへ戻ります。
3/4の一小節にGm7とC7を入れる場合、1拍半ずつ等分する方法もありますが、拍の感じが曖昧になりやすいです。1拍目にGm7、2拍目からC7、または小節全体を一つのコードにするなど、アレンジのリズムを明確にします。
Bフラットへ向かうCm7–F7
BフラットはFメジャーのIVですが、その直前にCm7–F7を置けば、Bフラットを一時的なIとして強調できます。
| Cm7 | F7 | B♭maj7 | B♭maj7 |
F7のAとEフラットが、Bフラットmaj7のBフラットとDへ半音解決します。基本進行のF7–Bフラットを、Cm7–F7–Bフラットへ広げた形です。
メロディーがCm7上でCやGを含むなら自然ですが、Eナチュラルを長く伸ばす場所ではCm7のEフラットと衝突します。導入する小節を選んでください。
Dmへ向かうEm7♭5–A7
DmはFメジャーのviで、相対短調の中心です。Dmの前にEm7♭5–A7を置くと、Dマイナーのiiø–V–iになります。
| Em7♭5 | A7♭9 | Dm7 | Dm7 |
A7のCシャープがDmのDへ、GがFへ解決します。FメジャーにないCシャープが一時的に現れるため、陰影が強くなります。メロディーがCナチュラルを伸ばす場所ではA7のCシャープとぶつかるため、A7sus、A7♯9、または別の位置を検討します。
セカンダリー・ドミナント
調内のコードを一時的な目的地にし、そのV7を前へ置く方法です。進行の方向を強めますが、調外音を含むためメロディーとの確認が不可欠です。
D7からGm7へ
Gm7はFメジャーのiiです。その前にD7を置くと、D7はV/iiになります。
| F6 D7 | Gm7 C7 | F6 | F6 |
D7のFシャープがGm7のGへ半音上行します。メロディーにFナチュラルがある場合、D7のFシャープと強くぶつかります。そのときはD7♯9としてFナチュラルを上声に残す、D7susにする、またはD7を省きます。
G7からC7へ
G7はV/V、つまりC7へ向かう属和音です。G7のBがCへ半音上行し、FはC7にも共通します。
| Dm7 | G7 | Gm7 | C7 |
Dm7–G7はCを目的地とするii–Vですが、Cmaj7へ解決せず、Gm7–C7へ進んでFへ向かいます。解決が連鎖し、終止前の高揚を作れます。
A7からDmへ
A7はV/viです。曲後半のF/E–Dmというベース下降を、Em7♭5–A7–Dmへ置き換えると、Dmへの到着が明確になります。
ただし旋律がEを長く伸ばす場合、A7上では5度として安定し、Em7♭5上ではルートになります。旋律との整合がよく、導入しやすい例です。
経過コードを使う
経過コードは、二つの目的地の間を半音または順次進行でつなぎます。新しいセクションを作るのではなく、ベースラインと内声を滑らかにする道具として使います。
F–F♯dim7–Gm7
FからGm7へ進む間にFシャープdim7を置くと、ベースがF–Fシャープ–Gと半音上行します。
| F6 F♯dim7 | Gm7 C7 |
Fシャープdim7の構成音Fシャープ–A–C–Eフラットは、D7♭9からルートDを省いた形と見ることもできます。Gmへ向かう属機能があり、短い経過として自然です。
メロディーがFを伸ばす場所ではFシャープと半音で衝突するため、旋律がAまたはCの位置で使うほうが穏やかです。
下降ベースを作る
F–F/E–Dm7–Dm7/Cのように、上の和音を近く保ちながらベースをF–E–D–Cと下げます。分数コードは旋律を変えずに方向を作りやすい方法です。
| Fmaj7 | F/E | Dm7 | Dm7/C |
F/Eは実質的にEをベースにしたFの上部構造で、E–Fの半音を含むため緊張があります。低音域でFとEを密集させず、右手のF和音を高めに置きます。
クロマチックなアプローチ
C7の前にDフラット7を置くと、Dフラット7からC7へ根音が半音下がります。Dフラット7はG7のトライトーン代理としても読めます。
| D♭7 | C7 | F6 | F6 |
色彩は強く、賛美歌の素朴さから離れやすいため、後半コーラスや器楽ソロで限定して使うと効果的です。メロディーとの半音衝突を意図的に解決できる場合に選びます。
段階別のアレンジ例
一つの完成版を丸暗記するのではなく、同じ16小節へ三段階で変更を加えます。旋律を弾きながら各段階を比較してください。
段階1は三和音中心
F、Bフラット、C7を中心にし、F/A、F/E、F/Cでベースだけを動かします。メロディーと3拍子の呼吸を最優先します。
段階2は7thとii–V
FをF6またはFmaj7、BフラットをBフラットmaj7、DmをDm7へ変えます。終止前にGm7–C7、Bフラット前にCm7–F7を一度ずつ加えます。
例として、後半8小節を次のようにできます。
| F6 | Cm7 F7 | B♭maj7 | F/A |
| Em7♭5 A7 | Dm7 | Gm7 C7 | F6 |
コードの長さはメロディーに合わせて調整します。1小節に2コードなら、どの拍で切り替えるかを決めます。
段階3は経過と代理
F–Fシャープdim7–Gm7、下降ベース、セカンダリー・ドミナント、トライトーン代理を選択的に加えます。一コーラス全体を濃くするのではなく、2番またはソロで密度を上げ、最後のフレーズでは再び簡潔に戻します。
リハーモナイズの効果は、コード数より前後の対比で決まります。最初の4小節をF6中心に保てば、後半のEm7♭5–A7–Dm7が鮮やかに聞こえます。
伴奏の作り方
コードが同じでも、ワルツ、バラード、ゴスペル、スウィングで演奏の印象は変わります。メロディーの意味と演奏場面に合うリズム、音域、密度を選びます。
ジャズワルツの基本
ピアノでは1拍目に低音、2・3拍目に短い和音を置く基本形があります。しかし毎小節同じ強さで「低音・和音・和音」と弾くと単調です。フレーズ終端では3拍目を休み、次のコードを先取りするなど変化を付けます。
ベース奏者がいる場合、ピアノ左手は低いルートを省き、3度と7度を中心にします。ベースは1拍目だけでなく、2・3拍目へ経過音を置いて次の根音へ導けます。
バラードでは余白を残す
歌や管楽器が旋律を担当する場合、各メロディー音に別のコードを付けないようにします。一つの和音を1~2小節保ち、フレーズの終わりだけii–Vを加えると、旋律の呼吸が残ります。
ペダルを使うピアノでは、コードが変わる瞬間に踏み替えます。半音で動く経過和音を同じペダルで混ぜると濁るため、リリースを明確にします。
ゴスペル風の応答
ゴスペル的なアレンジでは、旋律の後に短い和音で応答し、6th、sus4、分数コード、ベース下降を使えます。すべての隙間を埋めず、呼びかけと応答の間に休符を残します。
C7sus4からC7、F6へ進めば、Fを共通音として保った後、EをFへ解決できます。旋律がFを伸ばしている場所にも合わせやすい動きです。

即興とイントロを作る
リハーモナイズした進行をアドリブやイントロへ活かすと、曲全体に統一感が生まれます。
メロディーを変奏する
最初のソロでは新しい音を増やすより、旋律のリズムを少し遅らせる、最後の音を9thへ変える、1小節だけ休むなど小さな変奏を行います。コードが動く場所では3度または7度へ着地します。
Gm7–C7–Fなら、Gm7のBフラット、C7のE、FのAを目標にできます。Em7♭5–A7–Dmなら、E、Cシャープ、Dという半音の動きを聞かせます。
イントロは最後の進行から作る
曲の最後4小節に使う進行を、イントロとして反復できます。
| Em7♭5 A7 | Dm7 D7 | Gm7 C7 | F6 C7 |
最後のC7で歌のFへ導きます。歌い手へテンポとキーを伝えられるよう、イントロ末尾のカウントとピックアップを明確にします。
エンディングは単純化する
最後まで代理コードを増やすより、Gm7–C7–F6、またはBフラット–F/C–C7–Fのような明快な終止へ戻すと、旋律の余韻が残ります。最後のF6/9を広い配置で伸ばし、歌や管楽器の最終音を上に置きます。

Amazing Graceのよくある質問
- 何キーで練習すればよいですか?
-
本記事はFメジャーですが、歌唱では声域に合わせることが最優先です。Fで機能を理解したら、G、Eフラット、Bフラットなどへ移し、I・IV・V、ii–Vの関係で覚えてください。
- すべての三和音を7thにしてよいですか?
-
必ずしも自然ではありません。メロディーがコードの7度と半音でぶつかる場合や、素朴な響きを残したい場所では三和音や6thが適します。旋律音とボイシングの音域を確認します。
- ii–Vはどこに入れればよいですか?
-
Fの前にGm7–C7、Bフラットの前にCm7–F7、Dmの前にEm7♭5–A7を置けます。長く保たれる到着点やフレーズの境目を選び、すべての小節へ追加しないことが重要です。
- 3/4でもウォーキングベースはできますか?
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できます。1拍目に根音、2・3拍目にコードトーンや経過音を置き、次小節の根音へ導きます。毎小節同じ形にせず、メロディーの呼吸や伴奏密度に合わせます。
- リハーモナイズが不自然か判断する方法は?
-
メロディーだけ、基本三和音、リハーモナイズ版を録音して比較します。旋律の長い音が和音に埋もれないか、フレーズの到着点が分かるか、コードが変わりすぎて歌いにくくないかを確認してください。
原曲から一段ずつ発展させる
「Amazing Grace」をジャズコードで弾く出発点は、F、Bフラット、C7によるI・IV・Vの流れと、16小節の旋律を正確に共有することです。まずF6、Fmaj7、Bフラットmaj7、C9などへ広げ、根音と機能を保ったまま色を加えます。
次にFへGm7–C7、BフラットへCm7–F7、DmへEm7♭5–A7を置きます。必要な場所だけセカンダリー・ドミナント、Fシャープdim7、下降ベース、トライトーン代理を加えます。どの変更も、メロディーの長い音と解決先を確認することが条件です。
最初のコーラスは簡潔に、次のコーラスで7thやii–Vを増やし、最後は明快な終止へ戻すと、原曲の旋律を保ちながら展開を作れます。難しいコードを多く使うことではなく、素朴な骨格とジャズの声部進行を両方聞かせることが、自然なリハーモナイズにつながります。


