フェンダー・ジャズマスターは、その独特なルックスとサウンドで多くのギタリストを魅了していますね。
しかし、いざ興味を持って調べてみると、プリセット回路のユニークな使い方や、ジャガーとの違い、ストラトやテレキャスとの比較など、知りたい情報が多岐にわたります。
また、「ジャズマスターは弾きにくい」「弦落ちしやすい」といったネガティブな情報も目立ち、実際のところどうなのか、不安になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、フェンダー・ジャズマスターの基本的な特徴から、そうした具体的な悩みや疑問点まで、網羅的に解説していきます。
- ジャズマスターの歴史とサウンド特性
- 「弦落ち」など弾きにくい理由と対策
- 他モデルとの比較と選び方のポイント
- 初心者向けモデルと定番の改造パーツ
フェンダー・ジャズマスターの魅力と歴史

まずは、フェンダー・ジャズマスターがどのようなギターなのか、その基本的な成り立ちと音の秘密、そして多くの人を悩ませる構造的な特徴について掘り下げていきます。
ジャズマスターのサウンドと特徴
ジャズマスターを象徴するのは、なんといってもそのボディ形状ですね。
オフセット・ウェスト・ボディと呼ばれる左右非対称のデザインは、もともとジャズギタリストが座って弾くことを想定して設計されたものです。
そして、サウンドの核となるのが専用設計のピックアップ。
ストラトキャスターのものよりも幅広くフラットな形状をしており、これが独特のトーンを生み出しています。
そのサウンドは、一般的なフェンダーギター(ストラトやテレキャス)が持つ「ブライトでシャープ」なイメージとは異なり、「中低音域が強調された太くウォームなサウンド」と表現されます。
ボディ内部も、ソリッドボディでありながらホロウボディのような鳴りを目指して大きく空間(ザグリ)が設けられており、これも豊かな生鳴りと太いサウンドに寄与していると考えられます。
設計思想は「ジャズ」でしたが、その太く甘いサウンドはファズとの相性も抜群で、クリーンからクランチサウンドまで幅広く対応できるポテンシャルを持っています。
プリセット回路のユニークな使い方
ジャズマスターのコントロールを初めて見ると、スイッチやノブが多くて戸惑うかもしれません。
特にボディ上部(6弦側)にあるスライドスイッチと2つのローラーノブ。
これがジャズマスター独自の「プリセット回路(通称リズム/リードサーキット)」です。
これは非常にユニークな機構で、以下のように機能します。
- リード回路(スイッチ下)
通常のギターと同じ状態です。ボディ下部のマスターボリューム、マスタートーン、3-wayトグルスイッチが機能します。 - リズム回路(スイッチ上)
このモードに切り替えると、フロントピックアップのみが作動し、コントロールはボディ上部の専用ローラーノブ(ボリューム、トーン)に移行します。
この設計の意図は、リード(ソロ)とリズム(バッキング)を瞬時に切り替えることでした。
例えば、リード回路でブリッジピックアップを使ったブライトなソロ用の音を、リズム回路でフロントピックアップを使ったメロウなバッキング用の音をあらかじめ「プリセット」しておき、スイッチ一つで行き来する、といった使い方が想定されていたんですね。
ジャズマスターが弾きにくい理由
ジャズマスターに惹かれる一方で、「弾きにくい」「じゃじゃ馬」といった評価もよく耳にします。
これは、その構造に由来するいくつかの問題点、特に「弦落ち」という現象が大きく影響しています。
「弦落ち」とは、カッティングやストロークなど、少し強くピッキングした際に弦がブリッジのサドル(コマ)から外れてしまう現象のことです。
これは演奏中に発生すると非常にストレスになりますし、チューニングも狂ってしまいます。
この問題の根本的な原因は、ブリッジ周りの設計思想にあると考えられます。
フローティング・トレモロの構造上、ブリッジ部分で弦がサドルに強く押し付けられる力(ダウンフォース)が、他のギターに比べて弱いのです。
ジャズマスターの弦落ちと弦ゲージ
「弦落ち」の問題をさらに深掘りすると、それは1950年代の設計思想と、現代の演奏スタイルとの「ミスマッチ」が原因であると言えますね。
原因は大きく分けて3つあると私は分析しています。
- サドルの溝が浅い
オリジナルのサドルは、ネジを切ったような形状(スレッデッド・サドル)で、弦を保持するための明確で深い溝がありません。 - テンション(張力)の不足
前述の通り、ブリッジにかかる弦の角度が浅く、弦をサドルに押し付ける力が不足しています。 - 使用弦のミスマッチ
これが決定的な要因かもしれません。ジャズマスターは元々、ジャズギタリストが使用するような「太いゲージのフラットワウンド弦」で十分なテンションが確保される前提で設計されています。しかし、現代のロックギタリストはチョーキングを多用するため、「細いゲージのラウンドワウンド弦」(例: .009ゲージ)を使うのが一般的です。
この「想定外に細い弦」の使用によって、ただでさえ弱いテンションがさらに不足し、浅い溝のサドルから弦が簡単に外れてしまう、というわけです。
これは欠陥というより、設計前提と実用のギャップが生んだ必然的な現象と言えるでしょう。
ジャズマスターの歴史と使用ギタリスト
ジャズマスターの歴史は、そのユニークなサウンド特性と深く結びついています。
1958年にフェンダーの「最上級モデル」として鳴り物入りで登場したものの、肝心のジャズ市場からはほとんど受け入れられませんでした。
しかし、そのブライトな側面と独特のトレモロサウンドが、予期せぬサーフ・ロックのギタリストたちから支持を得ることになります。
その後、70年代に入るとサーフ・ミュージックも下火になり、ジャズマスターは「時代遅れ」と見なされ、1980年には一度生産終了となってしまいます。
市場から見放されたジャズマスターは、中古(ヴィンテージ)品が質屋などで非常に安価に取引される「誰も欲しがらないギター」となりました。
ここに目を付けたのが、80年代に台頭してきたオルタナティブ・ロックやノイズロックのアーティストたちです。
ソニック・ユースのサーストン・ムーアや、ダイナソーJr.のJ・マスキスといった面々は、高価でメインストリームの象徴だったレスポールやストラトを避け、安価で個性的なジャズマスターを手に取りました。
彼らがこのギターの「クセ」ごと愛し、ノイジーなサウンドを生み出したことで、ジャズマスターは「オルタナティブ・ロックの象徴」として再定義されました。
レオ・フェンダーの「最上級モデル」としての挑戦が市場に「失敗」したからこそ、「カウンターカルチャーのアイコン」として「成功」する機会を得た、非常に稀有なギターだと私は考えます。
あなたに合うフェンダー・ジャズマスター

ジャズマスターの「クセ」を理解したところで、次は購入ガイドです。
他の似たモデルとの違いや、具体的な改造方法、そして価格帯別のおすすめモデルまで、あなたに最適な一本を見つけるための情報をお届けします。
ジャガーとの違い、ストラトはどっち?
ジャズマスターを検討する際、必ず比較対象になるのが、見た目がよく似た「ジャガー」と、フェンダーの定番「ストラトキャスター」ですね。
ジャガーとの違い
オフセットボディ仲間であるジャガーですが、ジャズマスターとは根本的に仕様が異なります。
- スケール長
ジャズマスターがストラトと同じロングスケール(25.5インチ)なのに対し、ジャガーはショートスケール(24インチ)です。これによりジャガーの方が弦のテンションが弱く、押弦しやすいのが特徴です。 - ピックアップ
ジャズマスターが幅広でウォームな専用ピックアップなのに対し、ジャガーは金属のシールドで覆われた、よりブライトでノイジーな専用ピックアップを搭載しています。 - コントロール
ジャズマスターが3-wayトグルスイッチなのに対し、ジャガーは各ピックアップのON/OFFスイッチと、ローカット用の「ストラングル・スイッチ」を搭載し、より多彩な音作りが可能です。
選択肢としては、「ロングスケールで太い音のジャズマスター」か、「ショートスケールでジャキジャキした音のジャガー」か、という明確なサウンドと演奏性の違いで選ぶことになります。
ジャズマスターとジャガーは、似ているようで全く異なるキャラクターを持つギターです。
どちらを選ぶべきか迷っている方は、両者の違いをさらに詳しく比較したこちらの記事も参考にしてみてください。

ストラトキャスターとの比較
ストラトキャスターは、3ピックアップと5-wayスイッチによる多彩な音作り(特にハーフトーン)が可能な「万能選手」です。
対してジャズマスターは、ストラトよりも「ウォームでダーク」なトーンを持ちます。
汎用性ではストラトに劣りますが、オルタナティブやサーフ・ロックといった特定のジャンルにおいては、ストラトにはない強い個性を発揮します。
これは「標準と万能性」のストラトを選ぶか、「個性と美学」のジャズマスターを選ぶか、というアイデンティティの選択とも言えますね。
テレキャス比較とピックアップ交換
もう一つの定番、テレキャスターとの比較も見てみましょう。
テレキャスターのサウンドは「ブライトで歯切れが良い(スナッピー)」と評されますが、ジャズマスターはそれよりも「肉厚(ビーフィー)」で「鐘のような響き(チャイム)」があるとされます。
また、テレキャスターがトレモロなしのシンプルな構造なのに対し、ジャズマスターは独自のトレモロとリズム回路を持ち、機能面で大きく異なります。
ジャズマスターのピックアップは非常に独特ですが、これを交換するのも定番のカスタムです。
例えば、後述するJ・マスキスモデルのようにP-90タイプのピックアップに交換し、よりミッドレンジの強いサウンドを狙うこともあります。
また、オリジナルの1MΩ(メガオーム)という高抵抗値のポット(ボリュームやトーンのパーツ)が、現代の弦とアンプの組み合わせでは高音域がきつすぎると感じられることもあり、より一般的な500kΩのポットに交換してサウンドを落ち着かせる、といった改造も行われます。
初心者へのおすすめモデル
ジャズマスターに興味を持った初心者が最初に直面するのが、「どのモデルを選べばいいか」という問題です。
現代のジャズマスター市場は、(1)オリジナルの設計と欠点を忠実に再現した「ヴィンテージ準拠型」と、(2)欠点を修正し現代的にアップデートした「モダン改修型」の2種類に大別されます。
初心者に「ヴィンテージ準拠型」(例えばFender USAのAmerican Vintage IIシリーズなど)を推奨するのは、少し慎重になるべきだと私は考えます。
なぜなら、「弦落ち」という構造的な問題に直面し、ギターそのものに挫折してしまう可能性が高いからです。
したがって、初心者に推奨すべきは、最初から問題点が解決されている「モダン改修型」のモデルです。
- Squier by Fender
廉価ブランドですが、モダン改修型の宝庫です。「Affinity Series」や「Classic Vibe Series」は、弦落ち対策済みのサドルを採用しているモデルが多く、コストパフォーマンスに優れます。特に後述する「J Mascis Jazzmaster」は、この価格帯ながらシグネイチャーモデルとしての完成度が非常に高いです。 - Fender Japan(MIJ)
「Hybrid II Series」などは、ヴィンテージのルックスとモダンな演奏性を両立しており、こちらも弦落ち対策済みのサドルを搭載しています。
ジャズマスターはその構造上、初心者にとっては少し扱いにくい「欠点」も抱えています。
購入後に後悔しないためにも、どのようなポイントがあり、どうすれば使いやすくなるのかを事前に知っておくことが重要です。

J Mascisモデルと中古相場
ジャズマスターの「モダン改修型」を語る上で欠かせないのが、ダイナソーJr.のギタリスト、J・マスキスのシグネイチャーモデルです。
これはSquierブランドから発売されていますが、本人のこだわりが強く反映されており、非常に人気が高いモデルです。
「モダン改修型」の代表格であり、以下のような特徴があります。
- Adjusto-Matic(TOM)ブリッジ
ギブソン系のギターで使われるTOMタイプのブリッジを採用し、「弦落ち」を根本的に解決しています。 - 専用ピックアップ
オリジナルともP-90とも異なる、P-90ライクな専用ピックアップを搭載し、太くパンチのあるサウンドを生み出します。
中古相場について
ジャズマスターの中古市場は、価格帯が非常に広いです。
1950年代〜60年代のオリジナルのヴィンテージ品となると、状態によっては数百万円単位となり、コレクターズアイテムの領域です。
一方、現行のFender USA製は20万円以上、Mexico製やJapan製は10万円台、Squier製であれば数万円からと、予算に応じて多くの選択肢があります。
中古楽器の価格は、製造年、モデル、傷やパーツ交換の有無、市場の需要によって大きく変動します。ここで示す価格帯はあくまで一般的な目安です。購入を検討される際は、信頼できる楽器店の情報をご確認いただくか、専門知識のあるスタッフに相談することを強く推奨します。
ブリッジ交換とバズストップバー
すでにジャズマスターを持っていて「弦落ち」に悩んでいる場合、またはヴィンテージ準拠型を購入して対策したい場合、定番の改造パーツがいくつか存在します。
ブリッジ・サドルの交換
最も定番の対策です。
- ムスタング用サドル
同じフェンダー社のムスタング用サドルに交換する方法。弦一本ごとに深い溝が切られており、弦落ちを劇的に改善できます。伝統的な改造ですが、弦ごとの弦高調整ができないという側面もあります。 - Mastery Bridge(マスタリー・ブリッジ)
現代のオフセットギター用リプレイスメントブリッジの最高峰とも言われます。弦落ちを完全に解消し、サスティンも向上すると評価されていますが、非常に高価なパーツです。また、サウンドがオリジナルよりブライト(明るい)方向に変化するとも言われます。
バズストップバー
「バズストップバー」は、ブリッジとテールピースの間に取り付ける後付けのパーツです。
弦を上からバーで押さえつけることで、ブリッジ・サドルにかかる角度をきつくし、人工的にテンション(張力)を稼ぎます。
安価かつ簡易的に弦落ちや共振を解消できるため広く使われていますが、一方で「ジャズマスター特有のテンション感や、ブリッジ後方の弦の共鳴音といったサウンドキャラクターを損なってしまう」として、その使用については賛否が分かれるパーツでもあります。
ブリッジの交換やバズストップバーの取り付けは、ギター本体への加工が必要になる場合があります。ご自身での作業に不安がある場合や、貴重なヴィンテージ楽器の場合は、リペアショップなどの専門家にご相談ください。不適切な改造は、楽器の価値を損なう可能性があります。
まとめ:最適なフェンダー・ジャズマスター

フェンダー・ジャズマスターは、その歴史的背景と構造的な特徴が密接に絡み合った、非常に個性的で魅力的なギターです。
最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
- フェンダー・ジャズマスターは1958年に最上級モデルとして登場
- 当初はジャズ市場を狙ったが失敗した
- 左右非対称のオフセット・ウェスト・ボディが特徴
- 専用の幅広くフラットなピックアップを搭載
- サウンドは中低音域が太くウォーム
- リード/リズムを切り替えるプリセット回路を持つ
- 最大の悩みは「弦落ち」
- 弦落ちはテンション不足と浅いサドルの溝が原因
- 現代の細い弦ゲージとのミスマッチも一因
- 対策にはブリッジ交換(ムスタング用やMastery)が定番
- バズストップバーは安価なテンション対策だが賛否両論
- ジャガーとはスケール長とピックアップが根本的に異なる
- ストラトやテレキャスと比べ、より個性的で太いサウンドを持つ
- 初心者は「モダン改修型」(Squier J Mascisなど)がおすすめ
- ヴィンテージ準拠型(American Vintage IIなど)は構造理解が必要な上級者向け
- 歴史と構造を理解し自分に合う一本を選ぶことが重要







