ジャズの名曲をピアノで聴いてみたいと思ってみたものの、あまりに多くの曲やアーティストがいて、何から手をつければよいか迷ってしまうことはありませんか。
カフェやバーで流れるようなおしゃれなジャズピアノに憧れつつも、いざ「スタンダード」や「名盤」と言われても、どれが自分に合うのかピンとこないかもしれません。
ジャズピアノには、心に沁みる静かなバラード名曲もあれば、気分が高揚するかっこいいアップテンポの曲もあります。
また、ジャズピアノの魅力を語る上で欠かせないのが、ピアノ、ベース、ドラムの3人で行うジャズピアノトリオの名盤や、ピアニストの技巧が光るジャズピアノソロの世界です。
ジャズピアノ初心者がまず聴くべき曲から、少しマニアックな名盤、さらには自分で弾いてみたい人のためのジャズピアノ練習法や楽譜の情報まで、幅広く知りたいというニーズもあるでしょう。
私自身、ジャズピアノの膨大な世界に圧倒された経験がありますが、聴きどころさえ押さえれば、その奥深さにすぐに魅了されるはずです。
この記事では、ジャズピアノの世界を体系的に理解し、あなただけのお気に入りの一曲を見つけるためのガイドマップを提供します。
- 初心者がまず聴くべき定番の曲
- バラードやアップテンポなど気分で選ぶ名曲
- ジャズピアノトリオやソロの名盤
- 巨匠ピアニストのスタイルと特徴
聴き始めのジャズ名曲ピアノ案内

ジャズピアノの世界は広大ですが、まずは「聴き方」のコツと、代表的なスタイルを知ることから始めるのがおすすめです。
ここでは、初心者が最初に触れるべき定番曲から、気分に合わせて選びたい曲、そしてジャズピアノの魅力を凝縮した「ソロ」や「トリオ」といった演奏形態まで、聴き始めの第一歩を案内します。
ジャズピアノ初心者が聴くべき曲
何から聴けばいいか迷ったら、まずは誰もが知る「スタンダード曲」の、特に有名なピアニストによる演奏から入るのが間違いないですね。
ジャズの面白さは、同じ曲でも演奏者によって全く違う表現になる点にあると考えられます。
例えば、ビル・エヴァンス・トリオによる「Waltz for Debby」は、ジャズピアノの代名詞的存在です。
可憐な3拍子のメロディは、ジャズを知らなくても聴き覚えがあるかもしれません。
この曲が収録された同名のライブアルバムは、ピアノ、ベース、ドラムの3人が対等に対話する「インタープレイ」の魅力に満ちており、ジャズピアノトリオの入門盤としても最適です。
また、デイヴ・ブルーベック・カルテットの「Take Five」も必聴です。
5/4拍子という少し変わったリズムが特徴ですが、デイヴ・ブルーベックが弾く印象的なピアノの伴奏型(リフ)が曲全体の土台を作っており、非常にクールでかっこいい一曲です。
ブルースの力強さを感じたいなら、ボビー・ティモンズが作曲し、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズで演奏された「Moanin'」がおすすめです。
作曲者であるボビー・ティモンズ自身のピアノが、ゴスペルの影響を感じさせる力強くファンキーな雰囲気で、聴いているだけで気分が高揚してきます。
ジャズの聴き方や名盤について、もっと基本から知りたい方へ
ジャズの楽しみ方や、歴史的な名盤、ライブの魅力について総合的に解説した記事もあります。
ジャズ鑑賞の第一歩として、ぜひこちらも参考にしてみてください。

心に沁みるジャズピアノのバラード名曲
ジャズピアノの魅力の一つに、心を静かに揺さぶる「バラード」があります。
「ジャズピアノのバラード」と一口に言っても、実は二つの側面があるように思います。
一つは、芸術として「聴き入る」ための伝統的なスタンダード・バラードです。
これらはピアニストの感情表現や音色の美しさが試される分野と言えますね。
例えば、セロニアス・モンクが作曲した「'Round Midnight」は、ジャズ・バラードの金字塔です。
モンク自身のソロ演奏は、独特の「間」と響きが、ミステリアスな美しさを醸し出しています。
また、「My Funny Valentine」のようなスタンダード曲も、ビル・エヴァンスやキース・ジャレットといった巨匠たちが、それぞれに深い解釈による演奏を残しています。
もう一つは、カフェや作業用BGMとして「流す」ための、リラックスできる耳馴染みのよいジャズ・アレンジです。
YouTubeなどでは、J-Popのヒット曲(例えば宇多田ヒカルの「First Love」や中島みゆきの「糸」など)をジャズ・バラード風にカバーした演奏も人気を集めています。
また、「星に願いを」や「ムーン・リバー」といった映画音楽のピアノ・アレンジも、この文脈で求められることが多いですね。
かっこいいアップテンポの定番曲
ジャズの持つエネルギーやスピード感、そして超絶技巧を体感したい場合は、アップテンポの曲が最適です。
聴いているだけで気分が高揚し、「ジャズってかっこいい!」と素直に感じられる曲もたくさんあります。
例えば、オスカー・ピーターソン・トリオによる「C Jam Blues」は、ブルースというシンプルな形式の上で、どれほど高速でクリエイティブな演奏が可能かを示す見本のような演奏です。
その圧倒的な技巧とスウィング感にはただただ驚かされます。
また、ビバップ時代のスタンダード曲「Confirmation」を演奏した、トミー・フラナガン・トリオの録音なども、スリリングなアドリブの応酬が聴きどころです。
こうした曲は、ジャズミュージシャンたちが即興演奏の技術を競い合うような側面もあり、その緊張感がかっこよさにつながっているのだと考えられます。
技巧が光るジャズピアノソロの魅力
ジャズピアノの編成には、バンドやトリオだけでなく、ピアニスト一人だけで演奏する「ソロピアノ」という形態もあります。
ベースやドラムがいないため、ピアニストはメロディ、ハーモニー(和音)、リズムの全てを両手だけで構築しなければなりません。
これは、ピアニストの個性や技術、音楽的な構想力が最も直接的に表れる演奏形態と言えますね。
トリオが「対話」の魅力だとすれば、ソロピアノはピアニスト一人が作り出す「自己完結した宇宙」にその魅力があります。
ソロピアノの名盤として絶対に外せないのが、キース・ジャレットによる『The Köln Concert』です。
これは1975年に行われた完全即興演奏のライブ録音で、ジャズの枠を超えて世界的な大ヒットを記録しました。
研ぎ澄まされた緊張感と、溢れ出すような叙情性が同居する、まさに奇跡的なアルバムだと私は思います。
ジャズピアノトリオの名盤と定番曲
ジャズピアノの魅力を語る上で、最も重要で、核となる編成が「ピアノ・トリオ」(ピアノ、ベース、ドラム)です。
初期のジャズでは、ベースとドラムはピアノの「伴奏」でしかありませんでした。
しかし、この関係性を根本から変えたのが、ピアニストのビル・エヴァンスです。
彼は、3者が対等な立場で「対話」し、即興でアンサンブルを編み上げていく「インタープレイ」という演奏スタイルを確立しました。
このインタープレイの魅力を知るには、ビル・エヴァンス・トリオの歴史的名盤『Waltz for Debby』が最適です。
ライブの臨場感の中で、3人の音が緊密に絡み合う様子がはっきりと分かります。
一方、ビル・エヴァンスとは対照的な魅力を持つのが、オスカー・ピーターソン・トリオです。
彼の名盤『Night Train』では、圧倒的な技巧と強力なスウィング感で、聴く者をぐいぐい引っ張っていくような、エンターテイメント性の高いトリオ演奏が楽しめます。
ジャズの編成や楽器の役割に興味が湧いた方へ
ピアノ・トリオ以外にも、ジャズには様々なバンド編成があります。
各楽器がどのような役割を担っているのかを知ると、音楽がより立体的に聴こえてきます。
編成について詳しく解説した記事もぜひご覧ください。

深掘りするジャズ名曲ピアノの世界

定番曲や代表的なスタイルを聴き始めたら、次はいよいよジャズピアノの世界をさらに深掘りしていく段階です。
ここでは、歴史的な名盤の数々、音楽史を形作ってきた巨匠ピアニストたちの個性、そして「聴くだけでなく弾いてみたい」という人のための練習法や楽譜について紹介します。
必聴のジャズピアノ名盤30選
ジャズピアノの歴史は、ピアノ・トリオの名盤の歴史と言っても過言ではありません。
世の中には「ジャズピアノ名盤100選」といった特集も多くありますが、ここでは膨大な名盤の中から、特にスタイルを代表するようなアルバムをいくつかピックアップして紹介します。
- インタープレイの革命:ビル・エヴァンス『Portrait in Jazz』
『Waltz for Debby』の前年に録音された、革命的トリオの最初のスタジオ盤です。「枯葉」の革新的な解釈は必聴ですね。 - スウィングとブルースの極致:オスカー・ピーターソン『Night Train』
前述しましたが、ブルース・ナンバーを中心に、圧倒的技巧とスウィング感が融合した傑作です。ジャズの「楽しさ」が詰まっています。 - ハード・バップの基礎:ソニー・クラーク『Sonny Clark Trio』
ブルーノート・レーベルを代表するハード・バップの名盤です。硬質でありながらブルージーなタッチが魅力で、「Softly as in a Morning Sunrise」の名演が有名です。 - 現代への架け橋:キース・ジャレット『Standards, Vol. 1』
「スタンダーズ・トリオ」の幕開けを告げる名盤です。スタンダード曲の解釈に新たな地平を拓いた、スリリングな演奏が楽しめます。
これらはあくまで入り口に過ぎません。
ここからさらに、バド・パウエルやウィントン・ケリー、ブラッド・メルドーといったピアニストたちの名盤へと聴き進めていくことで、自分だけの「最高の一枚」が見つかるはずです。
巨匠ピアニストと彼らのスタイル
ジャズピアノの歴史は、革新的なスタイルを生み出してきた「巨匠」たちの歴史でもあります。
同じ曲でも、弾く人が違えば全く違う音楽になるのがジャズの面白さ。
ここでは、特に個性が際立つ巨匠たちを、そのスタイルと必聴盤と共に紹介します。
ビル・エヴァンス (Bill Evans)
「リリシズム(詩情)の魔術師」と称されます。
クラシックに影響された繊細で美しいハーモニーと、内省的な演奏スタイルが特徴です。
何より、ピアノ・トリオにおける「インタープレイ」を確立した功績が大きいですね。
オスカー・ピーターソン (Oscar Peterson)
ビル・エヴァンスが「内省的な美」なら、ピーターソンは「外向的なパワーと技巧」の頂点です。
「超絶技巧のスウィング・キング」と呼ばれ、圧倒的なスピードと正確なタッチ、そして何より強力なスウィング感が魅力です。
セロニアス・モンク (Thelonious Monk)
「孤高の天才」であり、ジャズ史上最も独創的なピアニスト・作曲家の一人です。
わざと不協和音を使ったり、リズムをずらしたり、音を弾かずに「間」を強調したりと、そのスタイルは唯一無二です。
聴けば聴くほど癖になる魅力があります。
ハービー・ハンコック (Herbie Hancock)
「ジャズ界のカメレオン」と呼ばれる通り、常にジャズの最先端で革新を続けるピアニストです。
アコースティックなジャズから、エレクトリック・ピアノを駆使したファンク、ヒップホップとの融合まで、その音楽性は変幻自在です。
初心者向けジャズピアノ練習法
ジャズピアノは「聴く」だけでなく、「弾いてみたい」という魅力にも溢れています。
しかし、クラシックピアノとは異なり、コード理論を理解し、自分でアドリブ(即興演奏)を創造できるようになることが目標となるため、何から手をつければいいか分からない人も多いでしょう。
ジャズピアノ学習の基本的なステップは、以下のように体系化できると考えられます。
- コードを覚える(レフトハンドヴォイシング)
ジャズの楽譜(リードシート)にはメロディとコードネームしか書かれていません。まずは左手で和音を瞬時に押さえられるようになることが重要です。 - スケールを覚える(アヴェイラブルノートスケール)
コードの上でアドリブを弾くために使用できる音階(スケール)を学びます。 - フレーズを覚える(アドリブのコピー)
好きなピアニストの演奏を聴き、そのアドリブフレーズを真似て(コピーして)弾いてみることが、最も重要な練習の一つです。 - 実践する(ブルースやスタンダード曲)
「枯葉」のようなスタンダード曲は、ジャズの基本的なコード進行(ツー・ファイブ・ワン)が多く含まれており、練習曲として最適です。
まずは理論書を読みつつ、簡単な曲からコード弾きに挑戦してみるのが良いスタートになりそうですね。
ジャズピアノの楽譜の選び方と入手
独学で練習を始めるには、優れた教本や楽譜集が不可欠です。
ジャズピアノの教本や楽譜には、大きく分けて二つの種類があります。
一つは、『ザ・ジャズ・ピアノ・ブック』(マーク・レヴィン著)のような、理論や和音の押さえ方(ヴォイシング)、練習法を体系的に解説した「教本」です。
これはジャズピアノのバイブル的な一冊とされています。
もう一つは、『ピアノソロ 好きな曲からはじめる やさしいスタンダード・ジャズ』のような、スタンダード曲をやさしくアレンジした「楽譜集(曲集)」です。
まずは知っている曲をジャズ風のアレンジで弾いてみたい、という初心者の方にはこちらが向いているでしょう。
これらの楽譜や教本は、楽器店はもちろん、島村楽器やヤマハなどのオンラインストアでも簡単に入手できます。
また、最近では1曲単位で楽譜データを購入できるダウンロード販売サイトもあり、ビル・エヴァンスの完全コピー譜など、マニアックな楽譜が見つかることもあります。
ジャズの理論や歴史を本でじっくり学びたい方へ
ジャズピアノの練習法だけでなく、ジャズの歴史や音楽理論について書かれた本も多くあります。
理論書から読み物まで、目的別に解説した記事を参考に、あなたの知的好奇心を満たす一冊を探してみてはいかがでしょうか。

お気に入りのジャズ名曲ピアノ発見法

この記事では、ジャズの名曲ピアノという広いテーマについて、聴き方から深掘りの仕方までを解説してきました。
最後に、あなただけのお気に入りの一曲を見つけるためのポイントをまとめます。
- ジャズ鑑賞の鍵は「演奏者の個性」と「アドリブ」を楽しむこと
- 初心者はまず「同じ曲の聴き比べ」から始めるのがおすすめ
- 「Waltz for Debby」はビル・エヴァンスによるピアノ・トリオの代名詞
- 「Take Five」はデイヴ・ブルーベックの弾く印象的なピアノリフが特徴
- 「Moanin'」はボビー・ティモンズの力強いブルース感が魅力
- 気分に合わせて「バラード」や「アップテンポ」を選ぶのも一つの方法
- ジャズ・バラードには「聴き入る芸術」と「BGM」の側面がある
- アップテンポの曲はジャズのエネルギーや超絶技巧を感じられる
- ソロピアノはピアニストの「自己完結した宇宙」が魅力
- キース・ジャレットの『The Köln Concert』はソロピアノの金字塔
- ピアノ・トリオの真髄は「インタープレイ(音の対話)」にある
- ビル・エヴァンスがトリオの演奏スタイルを革新した
- オスカー・ピーターソンは圧倒的な技巧とスウィング感が特徴
- セロニアス・モンクやハービー・ハンコックなど個性的な巨匠も多い
- ジャズピアノは「弾いてみる」という能動的な楽しみ方もある
- 練習はコード理論の理解とフレーズのコピーから始まる
- 理論教本やアレンジ楽譜集など様々な教材が入手可能
- まずは一曲、一つのアルバムから、あなたのジャズ名曲ピアノ探求を始めてみてください





