ジャズと言えば、サックスの音色を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ジャズの名曲の中でも、サックスが主役の曲は本当にたくさんあります。
ただ、いざ聴いてみようと思っても、ジャズ初心者にとっては、どの曲から聴けばいいか迷ってしまいますよね。
有名で定番のスタンダード曲はどれか、かっこいいアップテンポの曲や泣けるバラード、おしゃれなBGMとして聴けるボサノバなど、気分によっても選びたい曲は変わってくると考えられます。
また、サックスにはアルトサックスやテナーサックス、ソプラノ、バリトンといった種類の違いがあり、それぞれ音色も魅力も異なります。
チャーリー・パーカーやジョン・コルトレーンといった巨匠たちが、どの楽器でどんな名演を残したのかを知ると、ジャズ鑑賞はさらに深まるはずです。
この記事では、ジャズのサックス名曲について、初心者にも分かりやすい定番曲や楽器の特性、伝説的なプレイヤーまで、幅広く掘り下げていきます。
- ジャズ初心者向けの聴きやすい定番曲
- 気分で選ぶかっこいい曲や泣けるバラード
- サックスの種類(アルト・テナー等)ごとの特徴
- パーカーやコルトレーンなど有名なプレイヤー
ジャズの名曲とサックス入門ガイド

ジャズ・サックスの世界は広大ですが、まずは「聴きやすい」と感じる曲から入るのが一番ですね。
ここでは、ジャズ初心者の方でもすぐに楽しめる定番のスタンダード曲や、気分に合わせて選びたい「かっこいい」「泣ける」といったテーマ別の名曲を紹介します。
ジャズ初心者におすすめの聴きやすさ
ジャズと聞くと「難しそう」というイメージがあるかもしれませんが、サックスが主役の曲には、メロディが美しく、親しみやすいものが非常に多いです。
私自身、最初はそうした「聴きやすさ」からジャズの世界に足を踏み入れました。
例えば、スタン・ゲッツの演奏などは、その代表格と言えますね。
彼の音色は温かくリリカルで、特にボサノバとの相性は抜群です。
ジャズ特有の緊張感よりも、リラックスした心地よさを感じさせてくれます。
また、ポール・デズモンドのアルトサックスも、「ドライ・マティーニ」と評されるだけあって、知的で透明感のある音色が魅力的です。
彼の演奏は、疲れた時にそっと寄り添ってくれるような優しさがあります。
意外かもしれませんが、ジョン・コルトレーンも入門に最適です。
彼は「難解」という側面ばかりが強調されがちですが、『Ballads』のようなアルバムでは、テナーサックスの温かく叙情的な「歌心」に満ちた演奏を聴くことができます。
まずはこうした「メロディの美しさ」や「音色の心地よさ」を基準に選んでみると、ジャズ・サックスの魅力にスムーズに入っていけると考えられます。
有名な定番スタンダード曲とは?
ジャズ・サックスの名曲に触れていると、多くのプレイヤーが同じ曲を演奏していることに気づきます。
これらが「ジャズ・スタンダード」と呼ばれる、いわばジャズ界の共通言語のような曲目です。
ミュージシャンたちは、このスタンダード曲をもとにして、セッション(即興演奏)を繰り広げるわけです。
日本でも「黒本」(ジャズ・スタンダード・バイブル)という楽譜集が広く使われており、セッションの現場では欠かせないアイテムとなっています。
初心者の方がまず知っておくと良いサックス名演のスタンダードには、以下のような曲がありますね。
- 枯葉 (Autumn Leaves)
キャノンボール・アダレイの『Somethin' Else』収録の名演が特に有名です。 - Body and Soul
テナーサックス奏者にとっては聖典のような曲で、コールマン・ホーキンスによる歴史的な演奏が知られています。 - Take Five
ポール・デズモンドが作曲した5拍子の革新的なスタンダード。デイヴ・ブルーベック・カルテットの演奏が世界的にヒットしました。 - イパネマの娘 (The Girl from Ipanema)
スタン・ゲッツの演奏で知られるボサノバの定番曲です。 - Left Alone
ジャッキー・マクリーンが演奏した、ジャズ・バラードの定番中の定番です。
これらの曲は、様々なプレイヤーによって無数の解釈で演奏されています。
聴き比べてみるのもジャズの醍醐味の一つと言えるでしょう。
かっこいいアップテンポの魅力
ジャズのイメージとして「かっこいい」という側面を求めるなら、やはりアップテンポで疾走感のあるハードバップ・スタイルがおすすめです。
プレイヤーの超絶技巧とリズムセクションのスリリングな掛け合いは、聴いているこちらも興奮してきます。
チャーリー・パーカーの「Confirmation」などは、まさにビバップ(ハードバップの前身)の聖典とも言える曲です。
彼の圧倒的なスピードと創造性が凝縮されています。
また、デクスター・ゴードンの「Cheese Cake」も外せません。
彼の代表作『Go』に収録されており、豪快でスウィンギーなテナーサックスが炸裂する、ハードバップを代表する名曲の一つです。
ソニー・ロリンズの「Oleo」も、ジャムセッションで頻繁に取り上げられる曲ですね。
特にライブ盤での演奏は、即興演奏のスリルに満ちており、ジャズの「かっこよさ」を存分に味わうことができます。
こうした曲は、気分を上げたい時やドライブにもぴったりだと考えられます。
泣けるバラードと感動のメロディ
ジャズ・サックスの真価は、実はスロー・バラードにあると私は考えています。
速いフレーズを吹くテクニックとは異なり、プレイヤーの音色そのもの、息遣い、そして「間(ま)」の取り方といった、むき出しの感情表現が試されるからです。
「泣ける」ジャズ・バラードの金字塔といえば、やはりジャッキー・マクリーンの「Left Alone」でしょう。
この曲は、夭逝した伝説のヴォーカリスト、ビリー・ホリデイに捧げられました。
切なく張り詰めたアルトサックスの音色が、曲の持つ重厚な響きを完璧に表現しています。
ジョン・コルトレーンがヴォーカリストのジョニー・ハートマンと共演した「My One and Only Love」も、史上最もロマンティックな録音の一つです。
コルトレーンのテナーサックスとハートマンのバリトン・ヴォイスが、優しく溶け合います。
そして、コルトレーン自身のアルバム『Ballads』も忘れてはいけません。
「Say It」や「It's Easy to Remember」などで聴ける、優しく包み込むようなテナーの音色は、まさに「癒し」そのものです。
心を静かに揺さぶる、感動的なメロディの世界ですね。
おしゃれなBGMに合うボサノバ
リラックスしたい時や、おしゃれな空間のBGMとしてジャズを聴きたい場合、クール・ジャズやボサノバは最適な選択肢です。
特にテナーサックス奏者のスタン・ゲッツと、ボサノバの創始者ジョアン・ジルベルトが共演したアルバム『Getz/Gilberto』は、歴史的な名盤です。
世界的に大ヒットした「イパネマの娘」を聴けば、その心地よさがすぐに分かるはずです。
ゲッツの「The Sound」と呼ばれるリリカルで温かいテナーの音色が、ボサノバのささやくようなリズムと完璧に調和しています。
ボサノバ・ブームの火付け役となった「Desafinado」も、ゲッツの演奏で有名ですね。
彼の演奏は、ジャズの即興性とボサノバの繊細な美学を、奇跡的なレベルで融合させています。
こうした曲は、ジャズ特有の難解さを感じさせず、生活のあらゆるシーンに洗練された彩りを加えてくれる、非常に便利な音楽だと私は思います。
ジャズとボサノバは、歴史的に深く結びついています。
スタン・ゲッツがどのようにしてこの二つの音楽を融合させたのか、その背景や他の名盤についてさらに知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

ジャズの名曲とサックスの種類別特徴
一口に「サックス」と言っても、実はさまざまな種類があり、それぞれ音域もキャラクターも異なります。
ジャズの名曲を深く味わうためには、どのプレイヤーがどのサックスを使っているのかを知るのが近道です。
ここでは、主要な4種類のサックスと、それを象徴する名プレイヤーたちを紹介します。
アルトサックスの有名プレイヤー
アルトサックスは、機敏で華やかな高音域が特徴です。
ジャズの歴史において、常に「革新者」が手にしてきた楽器というイメージが私にはあります。
その筆頭は、何と言ってもチャーリー・パーカーです。
彼はビバップという新しいジャズの言語を、このアルトサックスで創造しました。
彼のスピードとハーモニー感覚は、後世のすべてのミュージシャンに影響を与えています。
パーカーの直系でありながら、よりソウルフルで「ファンキー」なスタイルを確立したのが、キャノンボール・アダレイです。
彼の豊かでパワフルな音色は「太陽のアルト」とも評され、『Somethin' Else』などの名盤でその魅力を存分に発揮しています。
一方で、ポール・デズモンドのように、知的でクールな音色を持つプレイヤーもいます。
「Take Five」で聴ける彼のソロは、リリシズムと構築美にあふれていますね。
テナーサックスの重厚な響き
テナーサックスは、人間の男性の声に最も近い音域を持つとされ、ジャズの「顔」とも言える存在です。
最も多くの巨匠を生み出してきた楽器でもあります。
「テナーサックスの父」と呼ばれるのが、コールマン・ホーキンスです。
彼は「Body and Soul」の名演で、それまで伴奏楽器とみなされがちだったテナーを、重厚な音色を持つソロ楽器へと引き上げました。
ソニー・ロリンズも、「テナーの巨人」として知られています。
力強さ、ユーモア、知性を兼ね備えた彼の即興演奏は、底知れない創造性に満ちています。
『Saxophone Colossus』(サックスの巨像)というアルバムタイトルが、彼の存在感を完璧に表現していますね。
そして、モダン・ジャズの探求者、ジョン・コルトレーンも忘れてはなりません。
彼は「シーツ・オブ・サウンド」と呼ばれる音の洪水から、晩年のスピリチュアルな探求まで、テナーサックスの可能性を極限まで押し広げました。
ソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンが活躍した時代は、「ハードバップ」と呼ばれるジャズの黄金期にあたります。
この熱い時代の音楽について詳しく知りたい方は、ハードバップの特集記事もご覧ください。

ソプラノとバリトンの魅力
アルトとテナーに比べると登場頻度は下がりますが、ソプラノとバリトンもジャズにおいて重要な役割を担っています。
ソプラノサックスは、最も高い音域を持ち、鋭く、時に哀愁を帯びた独特の響きが特徴です。
ジャズ初期のシドニー・ベシェが有名ですが、現代ジャズにおいてはジョン・コルトレーンが再発明したと言っても過言ではありません。
コルトレーンは、名曲「My Favorite Things」でソプラノサックスを大々的にフィーチャーしました。
この曲で聴ける、どこか東洋的で呪術的な響きは、テナーでは表現しきれない、彼のスピリチュアルな探求と結びついていたと考えられます。
一方、バリトンサックスは最も低音域を担う、大型のサックスです。
長らくアンサンブルの土台を支える役割にとどまっていましたが、ジェリー・マリガンが登場し、その地位は一変しました。
彼は「ピアノレス・カルテット」という革新的な編成で、バリトンサックスがアルトやテナーのように軽やかでリリカルなソロを取れることを証明しました。
彼の演奏は非常に「クール」で知的ですね。
パーカーとコルトレーンの革新性
ジャズ・サックスの歴史、あるいはモダン・ジャズの歴史を語る上で、チャーリー・パーカーとジョン・コルトレーンという二人の巨人は絶対に外すことができません。
チャーリー・パーカー、通称「バード」は、1940年代にビバップという革命を起こしました。
彼のアルトサックスが奏でる超高速で複雑なフレーズは、それまでのジャズのハーモニーとリズムの概念を根底から覆したのです。
彼以降、ジャズは「踊るための音楽」から「鑑賞するための芸術」へと大きくシフトしました。
ジョン・コルトレーンは、パーカーが開いた道をさらに押し進めた「求道者」です。
ハードバップ期には「シーツ・オブ・サウンド」と呼ばれる圧倒的な演奏スタイルを確立。
その後、『My Favorite Things』でモード・ジャズを追求し、ソプラノサックスを復権させました。
そして最終的には『A Love Supreme(至上の愛)』で、音楽を精神的な探求の媒体へと昇華させました。
この二人がいなければ、現代のジャズ・サックスの姿は全く違ったものになっていたと断言できるほどの存在です。
チャーリー・パーカーが創造した「ビバップ」は、モダン・ジャズの基礎となっています。
その歴史や特徴、さらに詳しい名盤について知りたい方は、ビバップの初心者向け解説記事をご参照ください。

お気に入りのジャズ名曲(サックス)を探そう

- ジャズの名曲の中でもサックスは「声」のような存在
- ジャズ初心者には聴きやすいメロディの曲がおすすめ
- スタン・ゲッツはリラックスしたい時に最適
- ポール・デズモンドの音色は知的でクール
- ジョン・コルトレーンはバラードも非常に美しい
- スタンダードはジャズの共通言語
- 「枯葉」はキャノンボール・アダレイの名演が有名
- 「Body and Soul」はテナーの聖典
- 「Take Five」はポール・デズモンド作曲の5拍子の曲
- かっこいい曲はアップテンポのハードバップ
- 泣ける曲はスロー・バラードで真価を発揮する
- おしゃれなBGMにはボサノバが合う
- アルトサックスはパーカーやキャノンボールが代表
- テナーサックスはロリンズやコルトレーンなど巨人が多い
- ソプラノやバリトンにも独特の魅力と名手が存在する





