ジャズ・スタンダードの作曲家たち|ガーシュウィンからディジー・ガレスピーまで

ジャズ・スタンダードの作曲家たち|ガーシュウィンからディジー・ガレスピーまで

ジャズ・スタンダードというと、ジャズ奏者が作った曲を思い浮かべるかもしれません。しかし、現在セッションや録音で演奏されるレパートリーの多くは、ブロードウェイ、映画、ティン・パン・アレーの流行歌から取り入れられたものです。一方で、デューク・エリントン、セロニアス・モンク、ディジー・ガレスピーらジャズ奏者の作品も、世代を越えて演奏される共通曲になりました。

作曲家と原曲の背景を知ると、ジャズの歴史が「新曲を作る歴史」だけではなく、既存の歌を別のリズム、編成、即興で読み替えてきた歴史でもあることが分かります。この記事では、代表的な作曲家と有名曲を、舞台・流行歌の系譜とジャズ奏者の系譜に分けて紹介します。

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この記事を読むと分かること
  • スタンダードがブロードウェイや流行歌から生まれた理由
  • ガーシュウィン、ポーター、カーンらの代表曲
  • エリントン、モンク、ガレスピーらジャズ作曲家の特徴
  • 作曲家を手がかりに録音を聴き比べる方法
目次

スタンダードの二つの源流

スタンダードは特定の様式名ではなく、多くの奏者が共有し、繰り返し演奏する曲を指します。その大きな源流は、ショーや映画のための歌曲と、ジャズ奏者が自分たちの演奏のために書いた作品です。

20世紀前半のアメリカでは、舞台や映画の歌が楽譜、ラジオ、レコードを通じて広まりました。覚えやすいメロディと明瞭な32小節形式を持つ曲は、ダンス楽団や歌手が取り上げやすく、ジャズ奏者にとっても即興の土台になりました。原曲では歌詞と物語を支えた曲が、器楽演奏では和声進行とフォームを共有する枠組みに変わったのです。

1940年代のビバップ以降は、ジャズ奏者自身が複雑な旋律や独自の和声を持つ曲を作り、それらもスタンダード化しました。既存曲のコード進行に新しい旋律を付けるコントラファクトも、この流れで重要です。

「作曲家」と「作詞家」は別の場合が多く、共作も珍しくありません。曲名だけで作者を一人に決めず、音楽、歌詞、編曲のクレジットを分けて確認することが大切です。

舞台と流行歌の作曲家

まず、ジャズ以外の舞台やポピュラー音楽からスタンダードを生んだ作曲家を見ます。彼らの曲は歌詞と物語を持ちながら、旋律と和声だけでも強い個性を保ちます。

ジョージ・ガーシュウィン

ジョージ・ガーシュウィンは、クラシックの語法とアメリカのポピュラー音楽を横断した作曲家です。作詞家の兄アイラ・ガーシュウィンとの歌曲には「I Got Rhythm」「Embraceable You」「But Not for Me」があり、オペラ『ポーギーとベス』からは「Summertime」などが広く演奏されています。

特に「I Got Rhythm」の和声進行は、リズム・チェンジと呼ばれる即興の枠組みになりました。原曲の旋律を演奏しなくても、同系統のコード進行に新しいテーマを載せた多くのジャズ曲があります。ガーシュウィンを知ることは、歌曲がビバップの作曲材料へ変わった過程を知ることでもあります。

ジェローム・カーン

ジェローム・カーンはアメリカのミュージカル発展に大きな役割を果たした作曲家です。「All the Things You Are」「Smoke Gets in Your Eyes」「Yesterdays」などがスタンダードとして演奏されています。多くの作品で別の作詞家と組み、舞台の人物や場面に沿う歌を作りました。

「All the Things You Are」は、調の中心が段階的に移る和声と、長い弧を描くメロディが特徴です。ジャズ奏者にとっては、複数の調を滑らかにつなぐ練習曲であると同時に、歌としての自然な流れを失わずに即興する課題になります。

コール・ポーター

コール・ポーターは作曲と作詞の両方を手がけた点でも知られます。「Night and Day」「What Is This Thing Called Love?」「I Love You」「You'd Be So Nice to Come Home To」など、洗練された言葉と和声を持つ曲を残しました。

ポーターの曲では、反復する音型、半音進行、長調と短調の曖昧さが印象を作ります。器楽演奏でも原曲の緊張感が残りやすく、歌詞を知るとメロディのアクセントやフレーズの向きが理解しやすくなります。

リチャード・ロジャース

リチャード・ロジャースは、作詞家ロレンツ・ハートとの組み合わせから「My Funny Valentine」「Have You Met Miss Jones?」「The Lady Is a Tramp」などを生みました。後にはオスカー・ハマースタイン2世と組み、ミュージカル史に残る作品を作っています。

ジャズで頻繁に演奏されるロジャース&ハート作品は、親しみやすい旋律の内側に巧みな転調や和声の動きを持ちます。「Have You Met Miss Jones?」の中間部は、調が長三度関係で移る例として奏者にもよく知られています。

ハロルド・アーレン

ハロルド・アーレンはブルースの感覚と劇場音楽を結び付けた作曲家です。「Over the Rainbow」「Stormy Weather」「Come Rain or Come Shine」「My Shining Hour」などが代表曲です。作詞家テッド・ケーラーやE.Y.ハーバーグ、ジョニー・マーサーらとの共作があります。

アーレンの旋律には、ブルースを思わせる音の動きと広い音域が共存します。歌手の解釈を比べると、譜面上の音程だけでなく、声の質感やタイミングが曲の陰影を作ることが分かります。

ホーギー・カーマイケル

ホーギー・カーマイケルは作曲家、歌手、ピアニストとして活動し、「Stardust」「Georgia on My Mind」「The Nearness of You」などを残しました。歌詞は別の作詞家が担当した作品も多く、「Stardust」はミッチェル・パリッシュ、「Georgia on My Mind」はスチュアート・ゴレルとの組み合わせです。

「Stardust」は一般的な32小節の型へ単純に収まらない広がりを持ち、ゆっくりした歌唱から器楽の即興まで多様な解釈を受け止めます。カーマイケルの曲は、簡潔に歌える旋律と、郷愁を含む和声の両方が魅力です。

アーヴィング・バーリン

アーヴィング・バーリンは「Blue Skies」「Cheek to Cheek」「Puttin' on the Ritz」など、アメリカのポピュラーソングを代表する多くの曲を書きました。複雑さを誇示しない明確な旋律と、場面をすぐ伝える構成が特徴です。

ジャズ奏者は、こうした分かりやすい原曲をリズムや和声で大胆に変化させてきました。素材が簡潔だからこそ、歌手の言葉の置き方、管楽器の音色、リズム隊のグルーヴの違いが前面に出ます。

ジャズ奏者の作曲

ジャズ奏者が書いたスタンダードでは、作曲と即興がより直接的に結び付きます。旋律そのものが特定の演奏語法を示し、合奏の配置まで曲の個性になることがあります。

デューク・エリントン

デューク・エリントンはピアニスト、作曲家、バンドリーダーとして、自身の楽団の奏者の音色を想定した作品を数多く書きました。「Mood Indigo」「In a Sentimental Mood」「Sophisticated Lady」は、旋律だけでなく管楽器の配置や音色の混合も重要です。

「Satin Doll」はビリー・ストレイホーンとの共作で、歌詞はジョニー・マーサーが担当しました。エリントン作品を一般的なリードシートで演奏する場合も、原録音のオーケストレーションを聴くと、コード記号だけでは分からない色彩が見えてきます。

ビリー・ストレイホーン

ビリー・ストレイホーンはエリントン楽団の作曲・編曲で中心的な役割を担いました。「Take the 'A' Train」「Lush Life」「Chelsea Bridge」などが代表作です。「Take the 'A' Train」はエリントンの名と結び付いて知られますが、作曲者はストレイホーンです。

「Lush Life」は若い時期に書き始められた歌曲で、複雑な和声と都会的な歌詞を持ちます。ストレイホーンを知ると、バンドリーダー名だけでは捉えきれない、作曲家と編曲家の協働が見えてきます。

セロニアス・モンク

セロニアス・モンクの「'Round Midnight」「Blue Monk」「Straight, No Chaser」は、現代ジャズの基本レパートリーです。不協和に聞こえる音、角張ったリズム、予想外の休符が、単なる癖ではなく曲の構造になっています。

モンク作品はコード進行だけを借りて滑らかに演奏すると、固有の輪郭が弱くなることがあります。まず本人の録音でメロディの長さ、アクセント、空白を確認し、その後で他の奏者が何を変えたかを比べると理解しやすくなります。

ディジー・ガレスピー

トランペット奏者ディジー・ガレスピーは、ビバップの形成を担った音楽家であり、重要な作曲家でもあります。「A Night in Tunisia」「Groovin' High」「Con Alma」などが広く演奏されています。チャノ・ポソ、ギル・フラーとの共作「Manteca」は、アフロ・キューバンのリズムとジャズの関係を示す作品です。

ガレスピーの曲は、速いコード進行だけでなく、特徴的なベース・パターン、休符を含む鋭い旋律、ラテン系リズムとの融合を持ちます。「A Night in Tunisia」では反復する低音と異なるセクションの対比が強く、フォーム全体を聞く必要があります。

ワンポイント

ガレスピー作品を学ぶときは音名だけを追わず、本人のフレーズが拍のどこから始まり、休符がどのように推進力を作るかを歌って確かめると、ビバップの語法を理解しやすくなります。

チャーリー・パーカー

アルトサックス奏者チャーリー・パーカーは「Confirmation」「Donna Lee」「Ornithology」など、ビバップの語彙が凝縮されたテーマで知られます。「Ornithology」はベニー・ハリスとの共作で、「How High the Moon」の和声を土台にしたコントラファクトです。

既存のコード進行へ新しい旋律を載せる方法により、奏者は慣れた和声で新しいリズムとフレーズを試せました。元になった歌曲とパーカー作品を続けて聴くと、再解釈が作曲へ発展する過程がよく分かります。

アントニオ・カルロス・ジョビン

ブラジルの作曲家アントニオ・カルロス・ジョビンは、ボサノヴァを世界へ広めた中心人物の一人です。「The Girl from Ipanema」「Desafinado」「Corcovado」「Wave」などがジャズ奏者にも演奏されています。ヴィニシウス・ヂ・モライスやニュウトン・メンドンサらとの共作があります。

ジョビン作品では、静かなリズムの内側でベースと内声が半音ずつ動き、豊かな和声を作ります。ジャズで演奏するときも、すべてを強くスウィングさせるのではなく、ポルトガル語の歌とブラジル音楽のリズム背景を尊重する必要があります。

作曲家を比べる視点

作曲家の違いは、曲名の一覧よりも、旋律、和声、リズム、作品の用途という四つの観点で比べると明確になります。

ガーシュウィンやロジャースの舞台歌曲では、登場人物が歌える自然な旋律と、場面を進める構成が土台です。ポーターは言葉と和声の機知、カーンは長い旋律線と転調、アーレンはブルースに通じる音の曲がり方に注目できます。いずれも原曲の歌詞を知ることで、器楽版のフレーズがどこから来たかを理解しやすくなります。

これに対し、モンクの休符や角張った音程、パーカーの高速で非対称なフレーズ、ガレスピーのリズムと和声は、即興演奏の現場から生まれた性格を強く持ちます。ただし、歌曲が単純でジャズ曲が複雑という区分ではありません。歌曲にも高度な転調があり、ジャズ奏者の作品にもブルースのような簡潔な形式があります。

エリントンとストレイホーンでは、旋律とコードだけでなく、特定の奏者の音色や楽団の組み合わせが作品の一部です。ジョビンでは、英語圏のジャズだけを基準にせず、ブラジルの歌とリズムの文脈を考える必要があります。

同じ作曲家の曲を三曲ほど選び、冒頭の音程、転調の場所、反復の使い方をメモすると、作風を具体的に比較できます。その後に別の奏者による録音を聴けば、作曲家の個性と演奏者の解釈を分けて捉えられます。

作曲家別に聴く方法

曲をばらばらに覚えるより、同じ作曲家の作品を並べると、旋律、和声、リズムの共通点が見えます。次の順で聴くと、原曲とジャズ解釈の関係を追いやすくなります。

  1. まず歌詞のある原曲に近い版を聴く
    物語の場面、言葉のアクセント、原旋律の区切りを確認します。
  2. 同じ曲の器楽版を聴く
    歌詞がない状態で、奏者が何を旋律の核として残したかを追います。
  3. 同じ作曲家の別の曲へ進む
    転調、反復、音域など、繰り返し現れる特徴を探します。
  4. ジャズ奏者の自作曲と比べる
    歌曲のフォームが、ビバップやモダンジャズでどう変化したかを確認します。

たとえば「I Got Rhythm」とリズム・チェンジの曲、「How High the Moon」と「Ornithology」を組にすると、既存曲の和声が新しい旋律を生む土台になったことが分かります。エリントンやストレイホーンでは、別奏者の小編成版だけでなく楽団録音を聴き、音色の設計まで含めて作曲を捉えましょう。

ジャズのクレジットには共作者、作詞者、編曲者が関わり、後世の通称と正式な作曲表記が一致しないことがあります。楽譜や録音を紹介するときは、権利者、出版社、レーベル、信頼できるアーカイブの表記を確認してください。

気になったジャズを実際に聴いてみる

記事で気になったアーティストやアルバムは、実際の演奏を聴くと特徴がより分かりやすくなります。作品名や演奏者、録音時期などを確認しながら、自分に合った音源を探してみてください。

作曲家のよくある質問

スタンダードはすべてジャズ奏者の作曲ですか?

いいえ。ガーシュウィン、カーン、ポーター、ロジャースらが舞台や映画のために書いた歌曲が数多く含まれます。ジャズ奏者がそれらを即興と編曲で再解釈し、共通レパートリーにしました。

ガーシュウィンの代表的なスタンダードは?

「I Got Rhythm」「Embraceable You」「But Not for Me」「Summertime」などです。「I Got Rhythm」の和声はリズム・チェンジとして、多くの新しいジャズ曲の土台にもなりました。

ディジー・ガレスピーの代表曲は?

「A Night in Tunisia」「Groovin' High」「Con Alma」などです。「Manteca」はチャノ・ポソ、ギル・フラーとの共作で、アフロ・キューバンのリズムとジャズの融合を示します。

作曲者と有名演奏者が違うのはなぜですか?

スタンダードは多くの奏者が解釈を重ねる音楽だからです。ある歌手や奏者の録音で有名になっても、その人が作曲者とは限りません。作品のクレジットと録音の演奏者を分けて確認しましょう。

作曲家を知ると演奏に何が役立ちますか?

曲が歌われた場面、旋律のアクセント、和声の狙いを理解しやすくなります。原曲を尊重したうえで、どの要素を残し、どこを即興で変えるか判断する材料になります。

まとめ

ジャズ・スタンダードは、ジャズだけの閉じた曲集ではありません。ブロードウェイや映画、ティン・パン・アレーの歌曲を奏者が取り込み、リズム、和声、編成、即興によって新しい意味を与えてきました。同時に、エリントン、ストレイホーン、モンク、パーカー、ガレスピーらは、ジャズの演奏語法そのものを作品へ刻みました。

作曲家を手がかりに原曲と複数の録音を聴けば、曲がどこから来て、何を保ちながら変化したかが見えてきます。作者、作詞者、共作者、演奏者を区別し、一曲を異なる時代と編成で追うことが、スタンダードを深く楽しむ近道です。

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