古いジャズ・スタンダードを動画のBGMにしたい、自分で演奏した音源を配信したい、譜面を掲載したい。そのとき「昔の曲だから著作権は切れているはず」と考えるのは危険です。
音楽には、作詞・作曲された作品の権利、編曲の権利、歌手や演奏家の権利、レコード会社など音源製作者の権利が重なります。曲そのものがパブリックドメインでも、市販CDの録音や現代の編曲を自由に使えるとは限りません。日本で利用する場合を中心に、保護期間の基本と確認手順を整理します。
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- 日本における楽曲の著作権保護期間と数え方
- 作詞・作曲、編曲、実演、音源の権利の違い
- パブリックドメイン曲を演奏・録音・配信する際の条件
- 無料BGMや動画利用で確認すべき実務上の項目
古い曲も一律に自由ではない
結論からいえば、ジャズ・スタンダードという分類だけで著作権の有無は決まりません。スタンダードは、多くの演奏家に共有されてきた曲を指す音楽上の言葉であり、法律上の権利状態を示す言葉ではないからです。
1920年代や1930年代に発表された曲でも、作詞者や作曲者が長く生きた場合は、作品の著作権が存続している可能性があります。外国作品には日本の保護期間だけでなく、条約、原国の保護期間、戦時加算が関係することもあります。
さらに、曲の著作権が満了していても、2020年代に録音された演奏には別の権利が生じます。古い曲を現代のピアニストが編曲し、レコード会社が録音した場合、原曲、編曲、演奏、録音物を別々に考えなければなりません。
パブリックドメインとは
パブリックドメインは、著作権の保護期間が満了するなどして、著作権者の許諾なしに利用できる状態を指します。文化庁の著作権解説も、保護期間が満了した作品は社会全体の共有財産となり、自分で演奏・歌唱して公開したり商用利用したりできると説明しています。
ただし、ここで自由になるのは、保護期間が満了した作品そのものです。既存のCD、配信音源、楽譜の版面、創作性のある新しい編曲まで一緒に自由になるわけではありません。
日本の保護期間の基本
現在の日本の著作権法では、個人が著作者である作品の著作権は、原則として著作者の死後70年まで保護されます。文化庁の保護期間Q&Aによれば、死亡した年そのものから日数を数えるのではなく、死亡年の翌年1月1日から起算します。
死亡年の翌年から70年
たとえば、ある作曲者が1955年に死亡したと仮定します。原則的な計算では1956年1月1日から70年を数え、2025年12月31日まで保護され、2026年1月1日から保護期間が満了した状態になります。
この計算は基本形にすぎません。実際には、次のような事情を確認します。
- 作詞者と作曲者が別人か
- 共同著作物として扱われるか、分離して利用できる作品か
- 無名、変名、団体名義などの例外に当たるか
- 外国作品で、原国の保護期間や条約が関係するか
- 第二次世界大戦に関する戦時加算の対象か
- 旧法や法改正時の経過措置が関係する年代か
2018年12月30日に、日本では原則50年だった保護期間が70年へ延長されました。非常に古い作品では旧法との関係もあるため、単純に「発表年に70を足す」方法では判断できません。
作詞と作曲は分けて確認する
歌詞と楽曲は、通常それぞれ独立して利用できる著作物です。作曲者の保護期間が満了していても、作詞者の保護期間が続いていれば、歌詞を歌う、掲載する、翻訳するといった利用には権利処理が必要になる可能性があります。
反対に、歌詞を使わずメロディーとコードだけを自分で演奏する場合は、作曲の権利状態が中心になります。ただし、既存の編曲を再現するなら、編曲者や音楽出版社への確認が別に必要です。
ジャズ・スタンダードには、ミュージカルや映画の挿入歌、フランス語曲に後から英語詞が付いた歌、複数人で作られた作品が多くあります。題名が同じでも、原詞、訳詞、追加された英語詞は別の権利を持つことがあります。
外国作品と戦時加算
アメリカ生まれのスタンダードを日本で使う場合、日本国内での保護関係を確認します。外国作品には国際条約による保護があり、作品の原国や公表時期によって扱いが変わります。
さらに、一部の連合国の著作物には、第二次世界大戦中に日本で十分な保護が受けられなかった期間を通常の保護期間へ加える戦時加算があります。公益社団法人著作権情報センターは、対象となる場合、1941年12月8日から各国との平和条約発効日前日までの日数が加算されると説明しています。国によって日数が異なり、対象作品の条件もあるため、古い外国曲ほど死亡年だけで結論を出さないことが重要です。
発表年ではなく、作詞者・作曲者・訳詞者・編曲者の氏名と死亡年を先に一覧にしてください。その後、日本での保護期間、原国、戦時加算、管理状況を順に確認すると見落としが減ります。
一曲に重なる権利
音楽利用を安全に判断するには、「曲」と「音源」を分ける必要があります。権利の対象と、許諾を求める相手が異なるためです。
| 対象 | 主な権利者の例 | 利用例 |
|---|---|---|
| メロディー・歌詞 | 作曲者、作詞者、音楽出版社 | 演奏、録音、配信、歌詞掲載 |
| 創作性のある編曲 | 編曲者、原曲の権利者 | 特定アレンジの再現、譜面化 |
| 演奏・歌唱 | 実演家 | 録音・録画、配信への利用 |
| 録音物 | レコード製作者、レーベル | CDや配信音源の複製、動画利用 |
| 楽譜の版面・解説 | 出版社、執筆者など | スキャン、コピー、ウェブ掲載 |
作詞・作曲の著作権
作詞者と作曲者は、複製、演奏、公衆送信など、利用方法に応じた権利を持ちます。著作権は一つの許可で何でもできる権利ではなく、複数の支分権の集まりです。
店舗で生演奏する、CDを制作する、YouTubeへ演奏動画を上げる、歌詞をウェブサイトへ載せる行為は、それぞれ関係する権利が異なります。JASRACなどの管理団体が管理している範囲も、作品と利用方法によって変わります。
編曲と翻案
ジャズでは、和音の置き換え、イントロの追加、リズム変更、旋律の装飾が日常的に行われます。しかし、法律上の「編曲」に当たる改変を保護期間中の曲へ行う場合、編曲権・翻案権や著作者人格権への配慮が必要です。
JASRACの音楽著作権の説明は、JASRACが編曲権や翻案権、著作者人格権を預かっていないため、編曲の許諾は著作者や音楽出版社へ問い合わせる必要があると案内しています。
演奏時の通常のフェイクと、作品の本質的な特徴を変える編曲の境界は、常に機械的に決められるものではありません。録音販売、広告、映像作品などへ使うために大きく変更する場合は、事前確認が安全です。
実演家の権利
歌手、楽器奏者、指揮者などの実演家には著作隣接権があります。自分の演奏を録音・録画する権利や、一定の送信に関する権利が含まれます。
文化庁の著作隣接権の概要では、実演とレコード発行に関する保護期間を70年、放送と有線放送を50年と説明しています。起算点や古い実演の経過措置は個別に確認が必要です。
レコード製作者の権利
レコード会社や原盤制作者は、録音物そのものに権利を持ちます。ここでいうレコードは、物理的なレコード盤だけでなく、CDや配信される録音物も含む考え方です。
曲の著作権が切れていても、有名演奏家の市販音源を動画へ貼り付ける場合、原盤と実演の権利が残っていれば許諾が必要です。文化庁も、パブリックドメイン曲であってもCDや配信音源には歌手、演奏者、録音物制作者の権利が存在し得ると明記しています。
パブリックドメイン曲の利用
原曲の著作権が確実に満了しているなら、自分で演奏・歌唱し、自分で録音した音源を公開したり商用利用したりできます。それでも、利用する素材の出所を確認する作業は残ります。
自分で演奏・録音する
最も整理しやすい方法は、パブリックドメインの原曲をもとに自分で演奏し、自分で録音することです。既存の音源を使わないため、他人の原盤を複製する問題を避けられます。
ただし、演奏に使う譜面が現代の編曲版なら、その編曲をそのまま再現しないよう注意します。原曲の古い資料や権利状態が確認できる資料を基礎に、自分で和声、イントロ、エンディング、編成を決める方が権利関係を整理しやすくなります。
共演者がいる場合は、録音・動画公開・商用利用の範囲について合意を残しておくと安心です。作品がパブリックドメインでも、演奏した人の実演に関する権利は新たに生じます。
現代の編曲を使う
パブリックドメインの曲を編曲した作品には、編曲部分に創作性があれば新たな著作物として保護される可能性があります。たとえば、独自のイントロ、対旋律、リハーモナイズ、オーケストレーションを含む出版譜をそのまま録音する場合です。
「原曲は自由」と「この譜面は自由」は同じではありません。楽譜の商品ページ、奥付、利用規約、出版社の案内を確認し、録音・配信・複製の許可範囲が不明なら問い合わせます。
古い録音を使う
録音が古いからといって、自動的に自由とは限りません。発行年、実演年、旧法の経過措置、原盤の国籍や条約上の保護などが関わります。また、復刻盤に独自の編集や解説が加わる場合もあります。
ウェブ上で無料再生できることは、ダウンロードして動画BGMへ転用できることを意味しません。視聴できる権限と、複製・公衆送信・同期利用の許諾は別です。

無料BGMとして使う条件
「無料BGM」は法律上の統一された権利状態ではなく、提供者が一定の条件で利用を許諾している音源を指すことが多い言葉です。無料で入手できるかではなく、ライセンスの内容を読みます。
無料と著作権フリーの違い
無料は価格が0円という意味です。著作権が消滅しているとは限りません。提供者が著作権を持ったまま、動画利用を無償で許可している場合があります。
「著作権フリー」という表現も、実務では意味が一定しません。完全なパブリックドメインを指す場合もあれば、一度購入すれば追加使用料が不要というロイヤリティフリーを指す場合もあります。利用規約を読まず、言葉だけで判断しないでください。
規約で確認する項目
無料BGMや音源ライブラリーでは、少なくとも次を確認します。
- 商用利用ができるか
- YouTube、SNS、ポッドキャスト、配信番組で使えるか
- 広告収益化したコンテンツで使えるか
- クレジット表記が必要か
- 編集、ループ、フェード、音量変更が許されるか
- 音源単体の再配布や販売が禁止されているか
- Content IDへの登録や申し立てに条件があるか
- ライセンスが後から変更された場合の扱い
- 禁止される業種、表現、政治利用などがあるか
- 許諾を証明するページや購入履歴を保存できるか
規約ページのURL、取得日、ライセンス文面、購入・ダウンロード記録を保存しておくと、後で申し立てが発生した際に利用条件を説明しやすくなります。
自作演奏でも曲の手続きは残る
保護期間中のスタンダードを自分で演奏して録音すれば、他人の原盤は使っていません。しかし、曲の複製、公衆送信、動画への収録などに関する手続きが不要になるわけではありません。
JASRACの動画投稿サービスに関する案内では、サービス事業者がJASRACと許諾契約を結んでいる場合に、一定範囲で管理楽曲を含む動画を投稿できる仕組みが説明されています。一方、市販CDやダウンロード音源を使う場合は、著作権とは別に著作隣接権の許諾が必要とされています。
プラットフォームの包括契約が、すべての利用を自動的に許可するわけではありません。広告用動画、企業案件、外国作品、編曲、他サービスへの転載、音源単体の配布などは別の確認が必要になることがあります。
利用前の確認手順
権利調査は、曲名検索だけで終えず、使う対象と行為を分解すると進めやすくなります。
- 利用内容を具体化する
生演奏、録音販売、動画配信、店舗BGM、譜面掲載、歌詞掲載など、何をどこで誰に届けるかを書き出します。 - 作品を特定する
原題、別題、作詞者、作曲者、訳詞者、音楽出版社、作品コードを確認します。同名異曲を避けます。 - 作品の保護期間を調べる
各著作者の死亡年、外国作品の原国、戦時加算、旧法の経過措置を確認します。 - 管理状況を調べる
JASRACのJ-WID、NexToneの作品検索、音楽出版社の情報で、誰がどの利用方法を管理しているか確かめます。 - 編曲を特定する
使用する譜面や録音が独自アレンジか、編曲権者や出版社の許諾が必要かを確認します。 - 音源の権利を調べる
既存音源を使うなら、実演家とレコード製作者の権利、レーベルの許諾窓口を確認します。 - プラットフォームと契約を確認する
投稿先の包括契約、音源ライブラリーの規約、商用利用や収益化の条件を読みます。 - 記録を残す
検索結果、許諾書、メール、規約、領収書、確認日を保存します。
J-WIDで「PD」や著作権消滅と表示されていることは重要な手がかりです。ただし、JASRACが管理していない作品を別の管理団体や権利者が管理している場合もあります。また、J-WIDは他人の原盤や演奏の権利まで一括して判定するものではありません。
「この曲は使えるか」ではなく、「この作品の、この編曲を、この演奏・音源で、この媒体に、この地域向けに使えるか」と質問してください。権利者や窓口も回答しやすくなります。
利用場面ごとの考え方
同じ曲でも、使い方が変われば必要な確認は変わります。代表的な場面を分けて考えます。
自分の演奏をYouTubeへ投稿
曲がパブリックドメインで、他人の編曲を無断再現せず、自分たちで演奏・録音したなら、作品と原盤の整理は比較的簡単です。共演者との公開合意と、使用した譜面の条件を確認します。
保護期間中の管理楽曲なら、投稿先と管理団体の契約範囲を確認します。編曲を加える場合や、市販の伴奏音源を使う場合は別の許諾が必要になる可能性があります。
市販CDを動画のBGMに使用
曲の著作権に加え、レコード製作者と実演家の権利が関係します。JASRACは著作隣接権を管理していないため、同団体で作品の手続きをしても、市販音源を自由に使えることにはなりません。レコード会社などへ原盤利用を問い合わせます。
自作の伴奏で歌を配信
自分で伴奏を作り、自分で歌えば、他人の原盤は使いません。曲が保護期間中なら、配信や録音に必要な作品の手続きを確認します。歌詞の翻訳、替え歌、大きな編曲をする場合は、通常の演奏・配信許諾とは別の権利が関係します。
楽譜やコード譜を公開
パブリックドメインの原曲を自分で採譜し、自分で編集した譜面なら、既存出版社の版面をコピーする問題を避けられます。保護期間中の曲では、旋律や歌詞を記譜して配布する行為に出版・複製の許諾が関係します。
コード名だけでも、曲の特定可能な構成、旋律、歌詞、独自編曲を一緒に掲載すれば問題が変わります。「コードだから必ず自由」と一律に判断せず、公開する内容全体を見ます。
演奏したい曲の楽譜を探す
実際に演奏してみたい曲が見つかったら、自分の楽器やレベルに合った楽譜を探してみましょう。同じ曲でも編成や難易度、アレンジが異なるため、内容を確認して選ぶことが大切です。
店舗でBGMとして再生
店舗でCDや配信音源を継続的に流す場合、施設での演奏利用と音源サービスの契約を確認します。家庭用サブスクリプションが店舗利用まで許可しているとは限りません。JASRACのBGM案内や、業務用BGM事業者の契約範囲を確認してください。
著作権のよくある質問
- 100年前の曲なら自由に使えますか?
-
発表から100年という事実だけでは判断できません。日本では原則として著作者の死後70年で計算し、外国作品では戦時加算なども関係します。作詞者、作曲者、訳詞者を特定して確認してください。
- 曲がパブリックドメインならCD音源も使えますか?
-
使えるとは限りません。歌手・演奏者の著作隣接権と、レコード製作者の原盤に関する権利が別に存在します。自分で演奏・録音する方法は、他人の原盤を使う問題を避けやすくします。
- 自分で演奏すれば許諾は不要ですか?
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原曲がパブリックドメインなら、自分の演奏を録音・公開できます。原曲が保護期間中なら、自分で演奏しても、録音、配信、公開演奏など利用方法に応じた作品の手続きが必要になる場合があります。
- J-WIDでPDなら何でも自由ですか?
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PD表示は、その作品の著作権が消滅していることを確認する重要な情報です。しかし、現代の編曲、実演、市販音源、出版譜、契約上の利用条件までは一括して自由にしません。使う素材ごとに確認します。
- 無料BGMは商用動画にも使えますか?
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提供元の規約次第です。商用利用、広告収益化、クレジット、編集、再配布、Content ID、利用できる媒体を確認してください。無料でダウンロードできることだけでは、商用利用の許可になりません。
作品・編曲・音源を分ける
ジャズ・スタンダードの権利確認で最も重要なのは、古さではなく何を利用するのかを分けることです。原曲のメロディーと歌詞、現代の編曲、演奏家の実演、レコード会社の録音物は、それぞれ別の権利対象になり得ます。
日本では、作品の著作権は原則として著作者の死後70年まで続き、翌年1月1日から期間を数えます。ただし、外国作品、戦時加算、共同作品、旧法の経過措置などで計算は複雑になります。曲名と発表年だけでパブリックドメインと決めないでください。
利用前には、作品を特定し、J-WIDなどで管理状況を調べ、編曲と音源の出所を確認します。自分で演奏・録音する場合も、原曲が保護期間中なら利用方法に応じた手続きが残ります。「昔の曲だから自由」ではなく、「作品・編曲・実演・原盤を一つずつ確認する」ことが、安全にジャズを活用する基本です。

