ジャズと聞いて、バーで流れる心地よい音楽を想像する方も多いかもしれません。
その中でも「ジャズ・トリオ」は、ジャズの魅力を最もシンプルかつ深く味わえる編成の一つと言えます。
しかし、ジャズ・トリオと一口に言っても、具体的にどのような編成なのか、ピアノトリオやギタートリオといった楽器構成の違いがどう音に影響するのか、最初はわかりにくい部分もあると考えられます。
また、これからジャズを聴き始めたいけれど、どのアーティストのどの名盤から聴けばよいのか、有名なおすすめの曲はあるのか、あるいは日本人の素晴らしいアーティストはいるのか、といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
ピアノレス編成や、ジャズボーカルとトリオの組み合わせなど、その形態は実に多彩です。
この記事では、ジャズ・トリオの基本的な編成の魅力から、まず聴いておくべき有名なアーティスト、定番の名盤、そしておすすめの曲まで、ジャズ・トリオの世界を深く知るためのポイントを解説していきます。
- ジャズ・トリオの代表的な編成とそれぞれの特徴
- ピアノトリオとギタートリオの楽器構成の違い
- まず聴くべき有名なアーティストと定番の名盤
- トリオ演奏で聴きたいおすすめのスタンダード曲
ジャズ・トリオの基本的な魅力を知る

ジャズ・トリオは、わずか3人の演奏者で成り立つ編成です。
しかし、そのシンプルさゆえに、各楽器の音が際立ち、演奏者同士の濃密な対話が生まれるのが最大の魅力と言えるでしょう。
このセクションでは、ジャズ・トリオの基本的な編成や、それぞれの楽器構成が持つ特徴について掘り下げていきます。
ジャズのトリオ編成とは
ジャズにおける「トリオ」とは、文字通り3人組による演奏形態を指します。
ジャズの編成の中でも最小限に近い構成ですが、それゆえに各楽器の役割が非常に重要になります。
3つの楽器がメロディ、ハーモニー、リズムを分担し、時にはお互いの役割を交換しながらスリリングな演奏を繰り広げます。
この丁々発止のやり取りこそが、トリオ編成の醍醐味と言えるでしょう。
シンプルな編成だからこそ、個々の技術や個性が際立ち、聴き手にダイレクトに伝わります。
ピアノトリオの楽器構成
ジャズ・トリオの中で最もスタンダードな編成が、ピアノトリオです。
一般的には「ピアノ」「ベース(主にウッドベース)」「ドラムス」という楽器構成になります。
- ピアノ
メロディとハーモニーの両方を担当する、編成の核となる楽器です。美しい旋律を奏でるだけでなく、コード(和音)で曲全体を支えます。 - ベース
低音で曲の土台となるリズムとコードの根音(ルート)を支える重要な役割を担います。時にはメロディックなソロを聴かせることもあります。 - ドラムス
曲のリズムを刻み、全体のグルーヴを生み出します。シンバルやスネア、バスドラムを駆使して、演奏に色彩感とダイナミズムを加えます。
これら3つの楽器が一体となることで、豊かで深みのあるアンサンブルが生まれます。
ジャズで使われる楽器の基本的な役割や編成についてさらに詳しく知りたい場合は、こちらの記事も参考になるかもしれません。

ギタートリオの構成と魅力
ピアノトリオと並んで人気が高いのが、ギタートリオです。
代表的な編成は「ギター」「ベース」「ドラムス」ですが、ピアノトリオとはまた違った魅力があります。
ギターはピアノと同様にメロディとハーモニーを奏でられますが、その音色はより軽やかでリズミカルな側面を持ちます。
カッティング(歯切れの良いリズム演奏)を加えたり、エフェクターで音色を変化させたりと、表現の幅が広いのが特徴です。
また、編成によっては「ギター」「オルガン」「ドラムス」という組み合わせ(オルガン・トリオ)もあり、こちらはオルガンがベースラインも兼任することが多く、よりファンキーでソウルフルなサウンドになる傾向があります。
ピアノレス編成の特徴
ジャズ・トリオには、ピアノやギターといった和音楽器を含まない「ピアノレス・トリオ」と呼ばれる編成も存在します。
例えば、「サックス」「ベース」「ドラムス」といった編成が代表的です。
この編成の最大の特徴は、和音の制約から解放されることによる「自由度の高さ」にあります。
メロディ楽器であるサックスが、ベースとドラムスが作り出すリズムの上を自由自在に駆け巡る、スリリングな演奏が魅力です。
ソニー・ロリンズの『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』などは、この編成の金字塔として有名です。
ジャズボーカルとトリオ
ジャズボーカルの伴奏として、トリオ編成が用いられることも非常に多いです。
最も一般的なのは「ボーカル」に「ピアノトリオ(ピアノ、ベース、ドラムス)」が加わる形です。
ボーカリストの歌声という「メロディ」を、トリオが豊かに、そして繊細に支えます。
ボーカルが主役でありながら、間奏では各楽器のソロがフィーチャーされることも多く、歌と演奏の両方を存分に楽しむことができます。
ボーカルが入ることで、ジャズがより身近に感じられるという方も多いのではないでしょうか。
おすすめのジャズ・トリオ名盤とアーティスト

ジャズ・トリオの基本的な編成がわかったところで、次に気になるのは「誰の何を聴けばいいのか?」ということでしょう。
ここでは、ジャズ・トリオの世界を知るために欠かせない、有名で聴くべきアーティストと、彼らの定番の名盤、そしておすすめの曲を紹介します。
まず聴くべき有名なアーティスト
ジャズ・トリオを語る上で欠かせない、歴史的なピアニストが二人います。
一人は、ビル・エヴァンスです。
彼のトリオは、ピアノ、ベース、ドラムスが対等に渡り合い、繊細でリリカル(叙情的)な演奏を繰り広げたことで知られています。
特にベーシストのスコット・ラファロとの演奏は、従来のベースの役割を革新したとも言われています。
もう一人は、オスカー・ピーターソンです。
彼は超絶的なテクニックと圧倒的なスウィング感で知られ、その演奏は「鍵盤の皇帝」とも称されます。
彼のトリオは、聴いているだけで体が動き出すような、エンターテイメント性にあふれた楽しさが特徴です。
その他にも、以下のようなアーティストはトリオ編成で素晴らしい作品を多く残しています。
定番のおすすめ名盤を紹介
アーティストが分かっても、どのアルバム(名盤)から聴くべきか迷うかもしれません。
まずは以下の定番アルバムから聴き始めてみることをおすすめします。
- ビル・エヴァンス・トリオ 『ワルツ・フォー・デビイ』
- ジャズ・ピアノ・トリオの最高傑作の一つ。ライブ録音ならではの緊張感と、リラックスした雰囲気が同居する名盤です。
- オスカー・ピーターソン・トリオ 『プリーズ・リクエスト』
- 「二人でお茶を」や「イパネマの娘」など、有名なスタンダード曲を多数収録。ジャズ入門にも最適と言えます。
- ウィントン・ケリー・トリオ 『ケリー・ブルー』
- 聴き心地のよいブルージーなフィーリングが満載。ジャズの楽しさが詰まった一枚です。
- ソニー・ロリンズ 『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』
- 前述したピアノレス・トリオの歴史的名盤。サックス、ベース、ドラムスだけのスリリングな演奏が楽しめます。
何から聴けばよいかさらに迷った場合は、以下の記事を参考にしてみてください。

一度は聴きたい有名な曲
ジャズ・トリオの演奏でよく取り上げられる「スタンダード曲」を知っておくと、さらにジャズが楽しくなると考えられます。
- 枯葉 (Autumn Leaves)
おそらくジャズ・スタンダードの中で最も有名な曲の一つ。ビル・エヴァンス・トリオをはじめ、多くのトリオが名演を残しています。 - いつか王子様が (Someday My Prince Will Come)
ディズニー映画の曲ですが、ジャズのスタンダードとしても愛されています。ビル・エヴァンスの演奏が特に有名です。 - A列車で行こう (Take the 'A' Train)
デューク・エリントン楽団のテーマ曲ですが、トリオでも頻繁に演奏される、スウィング感あふれる曲です。 - Cジャム・ブルース (C Jam Blues)
オスカー・ピーターソン・トリオの演奏が有名。ブルース形式のシンプルな曲ですが、各奏者のソロやインタープレイ(相互作用)が光ります。
注目の日本人アーティスト
海外のアーティストだけでなく、日本人にも素晴らしいジャズ・トリオは数多く存在します。
例えば、上原ひろみは、その圧倒的なテクニックとエネルギッシュなパフォーマンスで世界的に活躍するピアニストです。
彼女のトリオ「ザ・トリオ・プロジェクト」は、従来のジャズの枠を超えたサウンドを聴かせてくれます。
また、H ZETTRIO(エイチ・ゼットリオ)は、超絶技巧とコミカルなパフォーマンスで知られ、ジャズファン以外からも広く支持されています。
他にも、ベテランから若手まで、多くの優れた日本人ジャズ・トリオが活動しており、ライブハウスなどで気軽にその演奏に触れることができるのも、日本のジャズシーンの魅力と言えるでしょう。
さまざまなジャズのジャンルについて全体像を掴みたい場合は、こちらのガイドが役立つかもしれません。

お気に入りのジャズ・トリオを見つけよう

ジャズ・トリオの世界は、その編成やアーティストによって実に多彩な表情を見せてくれます。
この記事で解説したポイントをまとめます。
- ジャズ・トリオは3人組の演奏形態
- 最も基本的な編成の一つ
- 各楽器の音が際立ちやすい
- 演奏者同士の濃密な対話が魅力
- ピアノトリオは最もスタンダードな編成
- ピアノトリオの楽器構成はピアノ・ベース・ドラムス
- ピアノはメロディとハーモニーを担当
- ベースはリズムとコードの土台を支える
- ドラムスはグルーヴと色彩感を加える
- ギタートリオも人気のある編成
- 代表的なギタートリオはギター・ベース・ドラムス
- ピアノレス・トリオは和音楽器を含まない
- ピアノレス・トリオは自由度の高い演奏が特徴
- ジャズボーカルの伴奏にもトリオは多用される
- お気に入りのジャズ・トリオを見つけることが楽しみ方の一つ





