独特のオフセットボディと唯一無二のトーンで、多くのギタリストを魅了し続けるフェンダー・ジャズマスター。
しかし、その魅力的なルックスとは裏腹に、購入を検討する際に「ジャズマスター 欠点」と調べてしまう方も少なくありません。
私自身、ジャズマスターに憧れつつも、弦落ちしやすい、チューニングが狂う、独特のノイズがある、といった情報を耳にしてきました。
また、初心者には扱いにくいのではないか、コントロールが複雑なリズムサーキットを誤操作しやすいのではないか、ボディが重いのではないか、といった具体的な懸念を持つこともありますね。
これらの「欠点」とされる特徴は、実はジャズマスターが設計された時代の背景と、現代の演奏スタイルとのギャップから生じていることが多いと考えられます。
この記事では、ジャズマスターの最大の懸案事項である「弦落ち」の根本的な原因から、具体的な対策方法、さらにはサウンドや操作性に関するその他の「欠点」とされるポイントまで、私の視点で整理していきます。
- ジャズマスター最大の欠点「弦落ち」のメカニズム
- ムスタングブリッジなど定番の弦落ち対策と注意点
- サウンドや操作性に関するその他のウィークポイント
- 欠点を理解した上でジャズマスターと付き合う方法
ジャズマスター最大の欠点「弦落ち」

ジャズマスターについて語る際、避けて通れないのが「弦落ち」の問題ですね。
これはジャズマスターの構造的な特徴に起因する現象と考えられます。
ここでは、その原因と代表的な対策について掘り下げてみます。
弦落ちの原因はテンション不足
ジャズマスターで弦落ちが発生する最も根本的な原因は、ブリッジサドルにかかる弦の圧力、すなわち「テンション(張力)」が不足していることにあります。
ジャズマスターは、ストラトキャスターなど他のモデルと比べて、ブリッジからテールピースまでの距離が長いフローティング・トレモロ構造を持っています。
この設計により、ブリッジサドルに対して弦が乗る角度が浅くなります。
角度が浅いと、弦がサドルを上から押さえつける力が弱くなります。
その結果、激しいピッキングやチョーキングの際に、弦がサドルの溝から外れやすくなる、というわけです。
もともとこのギターは、発売当時に主流だった太いゲージ(0.12や0.13など)の弦を張ることを前提に設計されていたと推測します。
太い弦なら十分なテンションがかかりますが、現代の主流である細いゲージ(0.09や0.10など)の弦では、押さえつける力が不足しがちになるのですね。
弦落ち対策の定番ムスタングブリッジ
この弦落ち問題に対する最も伝統的でポピュラーな解決策が、同じフェンダー社の「ムスタング」というモデルのブリッジ(またはサドル)に交換することです。
ジャズマスターのオリジナルのサドルは、ネジを切ったような円柱形で、弦を保持する溝が非常に浅いのが特徴です。
一方、ムスタングブリッジのサドルは、各弦に対して深くしっかりとした溝が1本ずつ切られています。
この深い溝が弦を物理的にがっちりとホールドしてくれるため、弦落ちは劇的に改善されることが期待できますね。
パーツの規格も近いため、比較的容易に交換できる点も人気の理由と考えられます。
ただし、オリジナルのムスタング用サドルは弦ごとの高さ調整ができないタイプが多いため、その点を改良したサードパーティ製のパーツ(弦高調整が可能なムスタングタイプサドル)を選択するケースも多いようです。
ギターのパーツ交換や調整は、楽器にダメージを与えるリスクを伴います。特にブリッジ周りの交換は、オクターブ・チューニングや弦高の再調整など、専門的な知識が必要になる場合があります。ここで紹介する方法はあくまで一般的な例であり、効果を保証するものではありません。作業に不安がある場合は、無理をせず専門のリペアショップや楽器店に相談することを強く推奨します。
弦落ち改造とマスタリーブリッジ
近年、ムスタングブリッジと並んで(あるいはそれ以上に)定番のアップグレードパーツとなっているのが「Mastery Bridge(マスタリーブリッジ)」です。
これはジャズマスターやジャガー特有の問題点を解消するために専用設計されたリプレイスメントパーツで、以下のような特徴が挙げられます。
- 弦落ちを完全に防ぐ独自のサドル形状
- ブリッジポストがボディにしっかり固定される構造
- サステイン(音の伸び)やチューニングの安定性向上
オリジナルの「前後に揺れる(フローティングする)」構造とは異なり、ブリッジ自体をかなり強固に固定する思想で設計されているようです。
そのため、弦落ちの解消だけでなく、楽器全体の鳴りやチューニングの安定性にも良い影響を与えると評価されていますね。
ただし、パーツ自体が比較的高価であることや、その強固な固定方法によってジャズマスター本来の「ルーズ」とも言える独特の鳴り方が変化する可能性も指摘されています。
バズストップバーの効果とデメリット
もう一つの有名な対策が、「バズストップバー(Buzz Stop Bar)」の取り付けです。
これは、ブリッジとテールピースの間に取り付けるテンションバーで、弦を上からローラーで押さえつけるパーツです。
このバーを通すことで、ブリッジサドルにかかる弦の角度が急になり、結果として弦をサドルに押さえつける力(テンション)を強制的に強くすることができます。
バズストップバーのメリットとデメリット
手軽に弦落ちを対策できる反面、ジャズマスターの個性の一部をスポイルしてしまう可能性もはらんだ、トレードオフの大きいパーツと言えますね。
弦落ちとチューニングが狂う関係性
ジャズマスターの「欠点」として、「弦落ち」と並んで「チューニングが狂いやすい」こともよく挙げられます。
この2つの問題は、密接に関連していると私は考えています。
前述の通り、ジャズマスターのオリジナルブリッジはテンションが弱く、弦が浅い溝の上に乗っているだけの状態に近いですね。
この状態でアーミングや激しいチョーキングを行うと、弦はサドルの溝の上でわずかに滑り(ずれ)ます。
演奏後、弦がサドル上の正確な元の位置に戻らなければ、それはそのままチューニングのずれとして現れます。
また、ブリッジ自体が前後にフローティングする構造であるため、その動きがスムーズでない場合(例:摩擦が大きい、調整が不十分)も、チューニングが元に戻らない原因となります。
したがって、マスタリーブリッジへの交換や、摩擦の少ない Graph Tech(グラフテック)製のサドルへの交換、バズストップバーの追加といった「弦落ち対策」は、結果としてブリッジ周りの安定性を高め、「チューニングの安定」にも寄与すると考えられます。
ジャズマスターの他の欠点と初心者への影響

弦落ち以外にも、ジャズマスターにはいくつかの「扱いにくさ」とされる特徴があります。
これらの点が、特にギター初心者の方にとってハードルになる可能性について見ていきましょう。
歪みとの相性とサウンドの限界
ジャズマスターのピックアップは、ストラトキャスターともP-90とも異なる、非常にユニークな構造(幅広くて薄いボビン)をしています。
そのサウンドは、きらびやかで豊かな高音域と、独特の「甘さ」や「芯」を持つクリーン〜クランチトーンが最大の魅力です。
私自身、このトーンに惹かれてジャズマスターを手に取りました。
しかし、この高音域が豊かな特性は、ディストーションのような深い歪みとは相性が難しい場合があります。
歪ませすぎると高域が飽和して耳障りになったり、ハムバッカーのような中音域の厚みやパワーが得にくかったりするため、「ハードロックやメタルには向かない」とされることが多いですね。
もちろん、カート・コバーンのようにジャズマスターで激しいサウンドを出すギタリストもいますが、それは多くの場合、ピックアップをハムバッカーに交換するなどの改造を伴っています。
ジャガーとの違い
ジャズマスターとよく比較される「ジャガー」も、似たような問題を抱えつつ、異なる特徴を持っています。
ジャガーはショートスケールネックを採用しており、ジャズマスターよりもさらにテンションが緩くなる傾向があります。
この2つのモデルの違いについて興味がある方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

リズムサーキットの誤操作問題
ジャズマスターのコントロール部には、通常のマスターコントロール(ピックアップセレクター、ボリューム、トーン)とは別に、ボディ上部に独立した回路が搭載されています。
これは通称「リズムサーキット」と呼ばれるもので、スライドスイッチを上に切り替えると、フロントピックアップ専用の、あらかじめプリセットされた(よりダークで甘い)トーンに瞬時に切り替わる機能です。
この機能自体は非常に便利なのですが、問題はそのスイッチの位置です。
激しくストローク(かき鳴らす)するような奏法だと、ピッキングする手が意図せずこのスイッチに当たってしまい、突然音が変わってしまうことがあります。
これは演奏を妨げる大きなストレスになる可能性があり、このスイッチをテープで固定したり、回路自体を取り外してしまう改造を行う人もいるようです。
ピックアップ特有のノイズ問題
ジャズマスターに搭載されているのは、大柄なシングルコイルピックアップです。
そのため、ストラトキャスターやテレキャスターと同様に、電磁ノイズ(ハムノイズ)を拾いやすいという宿命的な弱点を持っています。
「ジー」というハムノイズは、特に照明が多いステージや、PCなどの電子機器が多い自宅環境、あるいはアンプを強く歪ませた際に顕著になりがちです。
これは「欠点」というよりシングルコイルピックアップの「特性」ですが、ハムバッカーピックアップのノイズの少なさに慣れていると、気になるポイントかもしれません。
対策としては、ボディ内部に導電塗料を塗るなどのシールド処理を施すか、ノイズキャンセリング機能を持ったピックアップに交換する方法などが考えられます。
重い?初心者には扱いにくい理由
ジャズマスターは、その独特なオフセットボディ形状のため、他のフェンダーギター(ストラトキャスターやテレキャスター)と比べてボディサイズが大きく、使用される木材の量も多くなる傾向があります。
そのため、「個体によっては重い」という点は確かに存在します。
重いギターは、特に立って演奏する際に肩への負担が大きく、初心者の方にとっては疲れやすさの一因になるかもしれません。
しかし、ジャズマスターが「初心者には扱いにくい」と言われる最大の理由は、重さや複雑なコントロール(リズムサーキット)以上に、これまで述べてきた「メンテナンスの要求度の高さ」にあると私は考えます。
- 弦落ち対策をどうするか(または、弦落ちしない弾き方を習得するか)
- フローティング・トレモロの調整をどうするか
- 定期的なセットアップ(ネック調整、弦高調整など)
これらの「楽器の特性を理解し、適切に手入れする」ことを求められる点が、何も気にせず弾くことに集中したい初心者にとっては、少々ハードルが高いと感じられる理由でしょう。
ギター入門として
もし、ギターを始める最初の1本としてジャズマスターを検討していて、これらのメンテナンス面に不安を感じる場合は、よりシンプルな構造のギターから始めてみるのも一つの手です。
以下の記事では、ジャズギター入門という観点ですが、ギター選びの基本的な考え方にも触れています。

ジャズマスターの欠点を理解し使いこなす

ここまでジャズマスターの様々な「欠点」について整理してきましたが、最後にこの記事のまとめとして、重要なポイントを箇条書きで振り返ります。
- ジャズマスター最大の欠点は「弦落ち」
- 弦落ちは設計当時の太い弦と現代の細い弦のミスマッチが主因
- 原因はブリッジサドルにかかる「テンション不足」
- 弦がサドルを押さえる角度が浅いことが根本原因
- オリジナルのサドルは弦を保持する溝が非常に浅い
- 対策の定番はムスタングブリッジ(サドル)への交換
- ムスタングサドルは溝が深く弦をしっかり保持する
- 近年はマスタリーブリッジへの交換も人気
- バズストップバーはテンションを稼ぐ手軽なパーツ
- バズストップバーは独特の倍音を失う副作用がある
- チューニングの狂いは弦落ち(ブリッジの不安定さ)と連動している
- サウンドは歪みとの相性が難しく、クリーン〜クランチ向き
- リズムサーキットはピッキング時に誤操作しやすい位置にある
- シングルコイル特有のノイズは避けられない
- 個体によってはボディが重い場合がある
- 初心者にはメンテナンスの要求度が高い点が最大のハードル
- 欠点は「特性」であり、理解と対策によって克服可能
ジャズマスターは、確かに「買ってきて、そのまま何も考えずに弾ける」というタイプのギターではないかもしれません。
しかし、その構造的な「特性」=「欠点」を正しく理解し、適切な調整や対策を施すことで、他のどんなギターにも代えがたい、唯一無二の素晴らしいトーンと演奏性を提供してくれる楽器ではないでしょうか。








