「A列車で行こう(Take the “A” Train)」は、軽快なピアノの導入に続いてビッグバンドが一斉に走り出す、スウィング・ジャズを代表する曲です。題名とデューク・エリントン楽団の印象が強いため、エリントンの作曲と思われることがありますが、実際の作曲者はビリー・ストレイホーンです。
曲はニューヨークの地下鉄A系統とハーレムを結びつけ、1941年から長くエリントン楽団のテーマ曲として演奏されました。明快な32小節形式、覚えやすい旋律、セクションごとの音色の対比があり、ビッグバンド・ジャズの編曲とスウィング感を知る入口に適しています。
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- 作曲者ビリー・ストレイホーンとデューク・エリントンの関係
- 題名のA列車とニューヨーク、ハーレムとのつながり
- 32小節AABA形式とビッグバンド編曲の特徴
- 1941年録音からボーカル版までの代表演奏
作曲者はストレイホーン
「A列車で行こう」の作曲者は、ピアニスト、作曲家、編曲家のビリー・ストレイホーンです。デューク・エリントン楽団が演奏して世界的に知られたため、作曲者と演奏者を区別することが最初のポイントになります。
エリントンとの出会い
ストレイホーンは1915年に生まれ、ピッツバーグで音楽を学びました。若い時期からクラシック音楽とポピュラー・ソングの作曲に取り組み、「Lush Life」のような洗練された作品も早くから書いています。
1938年、エリントン楽団がピッツバーグを訪れた際に二人は出会い、ストレイホーンは自作曲や編曲の力を示しました。その後ニューヨークへ移り、1939年からエリントン楽団の作曲家、編曲家、作詞家、ピアニストとして仕事を始めます。
二人の関係は、一般的なバンドリーダーと雇われた編曲家だけでは説明しきれません。ストレイホーンはエリントンの楽団にいる各奏者の音色を理解し、その個性が生きるように曲を書きました。エリントンもストレイホーンの和声感覚と構成力を信頼し、約30年にわたって共同作業を続けました。
スミソニアン国立アメリカ歴史博物館は、ストレイホーンがエリントンのスコアを研究し、楽団特有の響きを深く理解して不可欠な存在になったと説明しています。一方で、舞台の前面に立つエリントンに比べてストレイホーンの名前が十分知られなかった歴史もあります。「A列車で行こう」の作曲者を正しく知ることは、二人の協働を理解する第一歩です。
楽団のテーマ曲になった理由
「A列車で行こう」は1941年、エリントン楽団の録音によってヒットし、同年からエリントンの生涯にわたって楽団のテーマ曲として使われました。演奏会や放送で冒頭または締めくくりに演奏される曲は、楽団そのものを知らせる音の看板になります。
ストレイホーンの作品でありながら、エリントン楽団を象徴する曲になったことは矛盾ではありません。作曲、編曲、演奏者の個性、バンドリーダーの構想が一つになり、初めてあの録音の響きが生まれたからです。
米国議会図書館はストレイホーンの自筆譜を含む大規模な資料群を所蔵し、彼をエリントン楽団の音を形作った音楽的建築家として紹介しています。スミソニアンの資料でも、作曲者はストレイホーン、1941年以降の演奏と普及を担ったのはエリントン楽団であることが明確にされています。

題名と地下鉄A系統
曲名の「A Train」は、蒸気機関車や長距離列車ではなく、ニューヨーク市地下鉄のA系統を指します。ハーレムへ向かう都市の移動が、曲の明るいスピード感と結びついています。
ハーレムへの道案内
ストレイホーンがニューヨークでエリントンのもとを訪れる際、エリントンから地下鉄A系統を使ってハーレムへ来る道順を教えられたことが、曲の着想と結びついたと伝えられています。米国議会図書館も、エリントンのハーレムの自宅への道案内が着想になったと紹介しています。
歌詞には、A列車に乗ってハーレムのシュガー・ヒルへ向かう内容が登場します。シュガー・ヒルはハーレム北部の地区で、20世紀のハーレム・ルネサンスや黒人文化人、音楽家の歴史と結びつく場所です。
したがって題名は、単なる乗り物の歌ではありません。どの列車に乗れば、当時の黒人文化と音楽の重要な中心へ着けるのかを示す都市の案内です。軽快なリズムには、列車の運動だけでなく、目的地へ向かう期待が感じられます。
都市の速度を音にする
曲を聴くと、発車、加速、車輪、警笛のようなイメージを持つかもしれません。ただし、すべての音が具体的な列車音を模写しているわけではありません。一定に進むスウィング、短いリフの反復、セクション間の応答が、都市交通の前進感を作ります。
ビッグバンドは、多数の奏者がばらばらに演奏するのではなく、サクソフォン、トランペット、トロンボーン、リズム・セクションというまとまりで動きます。一つのセクションが主題を示し、別のセクションが答え、全員が合流する流れは、街の複数の動きが一つの方向へ進む感覚にも重なります。
1941年録音の魅力
この曲の基準となるのは、デューク・エリントン楽団が1941年2月に行ったオリジナルRCA録音です。短い演奏の中に、主題、ソロ、音色の変化、ダイナミクスが明快に配置されています。
レイ・ナンスのトランペット
スミソニアンの解説によると、この録音は楽団へ加わったばかりのレイ・ナンスを大きく扱った演奏です。バンドが最初のコーラスを演奏したあと、ナンスは二コーラスのソロを担当し、初めはミュート付き、次にオープンのトランペットへ移ります。
ミュートはベルの部分に付け、音色を変える器具です。こもった、鼻にかかったような音から、開放的で明るい音へ変わるため、同じ奏者のソロでも場面が展開します。音数を増やすだけではなく、音色の切り替えで物語を作るビッグバンド編曲の好例です。
ナンスのソロは完成度が高く、後に楽団で同じ曲を演奏するトランペット奏者がその形を踏襲するほど、曲の一部として定着しました。ジャズのソロは毎回完全に自由でなければならないわけではありません。優れた即興が記憶され、アレンジのように受け継がれることもあります。
楽器セクションの対比
ストレイホーンの編曲は、すべての楽器を常に同じ音量で鳴らしません。サクソフォン群の滑らかな動き、金管の短いアクセント、ミュートとオープンの音色、全体の合奏を対比させます。
デューク・エリントン楽団の特徴は、抽象的に「良いビッグバンド・サウンド」を目指すだけでなく、各奏者固有の音を前提に曲を書くことでした。高音域で鋭く鳴るトランペット、柔らかなアルト・サクソフォン、深いバリトン・サクソフォンなど、個人の音色がオーケストラの絵具になります。
「A列車で行こう」は編成が大きくても、旋律とソロの場所が分かりやすい曲です。初心者はまず、全員の合奏、トランペットのソロ、サクソフォンのまとまりという三つの音色を聞き分けてみてください。
小さくなるエンディング
オリジナルのアレンジでは、終わりへ向かって音量を抑えるディミヌエンドも効果的です。列車の曲だから最後まで大きく加速するとは限らず、遠ざかっていくような終わり方が余韻を残します。
ダイナミクスは楽譜上の強弱記号だけではありません。どのセクションを前へ出し、どの音色を後ろへ下げるかによって、録音の奥行きが生まれます。約3分の演奏を一度目は旋律、二度目はトランペット、三度目は音量変化だけに注目して聴くと、編曲の密度が分かります。
1941年録音の構成とレイ・ナンスの役割は、スミソニアン国立アメリカ歴史博物館の音源解説で確認できます。
曲の形式と和声
軽快で親しみやすい曲ですが、即興と編曲を支える構造は明確です。フォームと特徴的な和音を知ると、ソロの位置を追いやすくなります。
32小節のAABA形式
一般的な演奏は、8小節ずつのA、A、B、Aによる32小節形式です。
- 最初のA:覚えやすい主題を提示する
- 二度目のA:同じ核を繰り返し、終わり方を調整する
- B:別の旋律と和声で景色を変える
- 最後のA:主題へ戻り、コーラスを閉じる
この32小節を一コーラスとして、テーマの後にソロを回し、最後にテーマへ戻れます。Aが三回あるため、同じ部分を機械的に演奏するのではなく、音量、音色、フレーズの終わりを変えることで展開を作ります。
スミソニアンは、曲の和声が1930年の「Exactly Like You」を土台にしていると説明しています。既存曲のコード進行を手がかりに新しい旋律を作ることはジャズで行われてきた方法で、曲の個性はメロディー、リズム、編曲、演奏によって明確に区別されます。
Cメジャーの明るさ
よく使われる譜面はCメジャーで書かれます。主調が分かりやすく、A部分は明るい響きから始まります。その途中にD7の変化和音が置かれ、旋律にも調の外側を感じさせる音が現れます。
この和音は、単純なCメジャーの曲に一瞬の浮遊感と都会的な鋭さを加えます。初心者はコード記号の細部をすぐ暗記するより、安定したCの響きから、少し外側へ傾く瞬間を耳で探すとよいでしょう。
変化和音の緊張は、その後の進行によって解決します。ジャズの和声では、調の中の音だけを使い続けるのではなく、一時的に外の音を借り、次の場所へ進む力にします。「A列車で行こう」の明るさが単調にならない理由の一つです。
ブリッジで広がる景色
B部分ではA部分と違う旋律が現れ、主題の反復から離れます。音域、和音、セクションの配置を変えることで、列車が別の区間へ入ったような展開が生まれます。
ソロを聴くときは、A部分の特徴的な変化和音と、B部分の長めの流れを目印にします。コード名をすべて知らなくても、Aの主題が二度続き、景色が変わり、最後にAへ戻る感覚をつかめれば、32小節の位置を追えます。
最初は1941年録音に合わせ、A、A、B、Aと紙に印を付けてください。二回目は紙を見ず、Bへ入った瞬間と最後のAへ戻った瞬間だけ声に出すとフォームが定着します。

スウィング感の聴き方
「軽快」という印象は、テンポが速いからだけではありません。リズム・セクションと管楽器が、拍の流れを保ちながらアクセントをずらし、弾力を作っています。
リズム・セクションの役割
ピアノ、ベース、ドラムは、列車の線路のような時間の土台を作ります。ベースは四分音符を中心に歩くようなラインを作り、ドラムはライド・シンバルとハイハットでスウィングを支えます。ピアノはすべての拍を埋めず、必要な場所に和音と合図を置きます。
ベースの四分音符を追うと、ホーンが休んでも音楽が止まらないことが分かります。次に2拍目と4拍目で閉じるハイハットを探すと、身体が自然に乗りやすい重心を感じられます。
スウィングする8分音符は、常に同じ比率で跳ねるわけではありません。テンポが速くなるほど均等に近づく場合もあり、奏者によって前後の位置が違います。「付点8分音符+16分音符」と固定して考えるより、録音のベースとシンバルを一緒に聴くほうが実際の感覚へ近づきます。
リフと合いの手
ビッグバンドでは、主旋律の隙間に別セクションが短いフレーズを入れることがあります。これが合いの手となり、旋律を押し出します。全員が同じリズムを演奏するユニゾン、異なる音で同じリズムを作るハーモニー、別のリズムで答える応答が使い分けられます。
「A列車で行こう」では、トランペット・ソロの背景でサクソフォン群が動くなど、主役と背景が交代します。ソロだけを聴くのではなく、その後ろで誰が何を答えているかに注目すると、ビッグバンドが大人数で即興を支える仕組みが見えます。
音色が編曲になる
同じ音程でも、ミュート付きトランペット、オープン・トランペット、クラリネット、サクソフォン・セクションでは印象が異なります。ストレイホーンとエリントンは、この音色の違いを単なる装飾ではなく曲の構造として使いました。
楽譜でメロディーだけを追うと見落としやすい部分です。テーマ、ソロ、背景、終結で「誰が鳴っているか」をメモすると、編曲が旋律を何度も違う角度から見せていることが分かります。

歌詞とボーカル版
「A列車で行こう」は器楽曲としての印象が強い一方、歌詞付きの録音も重要です。言葉によって地下鉄とハーレムの関係がはっきりし、器楽版とは別の楽しみ方ができます。
複数の歌詞がある
この曲には複数の歌詞の形があり、歌手が言葉を変えて歌うこともありました。中心にあるのは、A列車に乗り、シュガー・ヒルを含むハーレムへ向かうという案内です。
歌詞を長く引用しなくても、内容を知れば器楽版の勢いが目的地を持って聞こえます。列車の到着を急ぐ言葉、線路の響きを思わせる表現が、スウィングするリズムと結びついています。
ベティ・ロッシュの歌唱
1942年の映画『Reveille with Beverly』では、ベティ・ロッシュがエリントン楽団と歌いました。テーマの後に歌が入り、ボーカル・トリオとのコール・アンド・レスポンスも聞かれます。
器楽版ではホーン同士が担っていた掛け合いを、人の声と楽器が共有します。歌詞を伝える場面と、声を一つの楽器として使う場面の両方があり、ビッグバンド・ボーカルの構成を理解しやすい録音です。
エラ・フィッツジェラルド版
1957年の『Ella Fitzgerald Sings the Duke Ellington Song Book』では、エラ・フィッツジェラルドがエリントン楽団とこの曲を演奏しました。ストレイホーンによる新しいアレンジは、列車の警笛を思わせる遊び心のある導入と、フィッツジェラルドのスキャットを生かします。
スキャットは意味のある文章ではなく、音節を使って即興する歌唱です。フィッツジェラルドは旋律を伝えるだけでなく、声で管楽器のようにリズムと音程を操ります。1941年の器楽版と続けて聴くと、同じ楽団がボーカルのために音の空間をどう組み替えたか分かります。

代表演奏を聴き比べる
この曲はエリントン楽団の歴史とともに変化しました。最初から多くのカバーを集めるより、役割の異なる録音を順に聴くと理解しやすくなります。
1941年オリジナルRCA録音
最初の基準です。約3分という当時のレコードに適した長さの中で、テーマ、レイ・ナンスの二段階のトランペット・ソロ、サクソフォンの背景、エンディングが整理されています。
注目点は、同じトランペット奏者がミュートからオープンへ音色を変える瞬間です。旋律を大幅に変えなくても、音色だけで場面が開くことを聴けます。
1942年ベティ・ロッシュ版
歌詞とコール・アンド・レスポンスを知るための録音です。映画映像では列車の表現が地下鉄ではなく鉄道になっていますが、演奏と歌から当時のビッグバンド・ショーの見せ方が分かります。
器楽テーマ、歌、声による応答が短い時間で切り替わるため、アレンジが聴衆の注意をどう動かすかに注目してください。
1952年の拡張版
エリントン楽団は1952年の録音で、ベティ・ロッシュとテナー・サクソフォン奏者ポール・ゴンザルヴェスを扱う拡張された形を残しました。初期の短い録音より長く、曲がテーマ曲として固定されるだけでなく、時代のメンバーに合わせて再構成されたことを示します。
同じ楽団名でも在籍奏者は変わります。エリントンは過去の成功した録音をそのまま再現するだけでなく、新しい声とソリストが生きる形へ曲を作り替えました。
1957年エラ版
エラ・フィッツジェラルド版は、ストレイホーン自身の新アレンジとスキャットを楽しむ録音です。列車の効果音を思わせる導入、声と楽団の応答、スウィングする言葉の置き方が一体になります。
初めて聴くなら、1941年版の直後に置くのがおすすめです。作曲者と楽団が同じ曲を16年後に別のボーカリストへ合わせ、どこを残し、どこを変えたか比較できます。
小編成のカバー
この曲はビッグバンドだけでなく、ピアノ・トリオや小編成でも演奏されます。小編成ではセクション同士の対比をそのまま再現できないため、ピアノの左手と右手、ソリストとリズム・セクションが役割を分担します。
小編成版を聴くと、曲の個性が大人数の音圧だけに頼っていないと分かります。32小節の形式、特徴的な和声、明るい旋律、スウィングの流れが保たれれば、「A列車で行こう」らしさは残ります。
1941年、1942年、1957年の順に同じ曲を聴き、導入、テーマ、ソロ、ボーカル、終わり方を表にすると、ビッグバンド編曲の変化を具体的に比較できます。
気になったジャズを実際に聴いてみる
記事で気になったアーティストやアルバムは、実際の演奏を聴くと特徴がより分かりやすくなります。作品名や演奏者、録音時期などを確認しながら、自分に合った音源を探してみてください。
初心者向けの聴き方
細かな楽器名をすべて知らなくても、三回に分けて聴けばビッグバンドの構造を捉えられます。
一回目は列車の勢い
まず分析せず、足で拍を取りながら全体を聴きます。メロディーが明るいか、どこで音が大きくなるか、最後にどのように遠ざかるかを感じてください。
二回目は主役を追う
トランペット・ソロだけを追い、ミュート付きとオープンの音色を聞き分けます。その後ろでサクソフォンが入る瞬間も探します。主役と背景を分けると、大人数でも音が整理されて聞こえます。
三回目はフォームを数える
A、A、B、Aを8小節ずつ数えます。ソロへ入っても同じ32小節が続くかを確認し、最後のテーマへ戻る場所を予想します。
この三段階で、雰囲気、音色、構造がつながります。最初から全パートを同時に分析する必要はありません。
A列車で行こうのよくある質問
- 「A列車で行こう」はデューク・エリントン作曲ですか?
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いいえ。作曲者はビリー・ストレイホーンです。デューク・エリントン楽団が1941年に録音し、長くテーマ曲として演奏したため、エリントンの名前と強く結びついています。
- A列車は実在する列車ですか?
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はい。ニューヨーク市地下鉄のA系統を指します。曲はハーレム、特に歌詞に登場するシュガー・ヒルへ向かう道案内と結びついています。長距離鉄道を題材にした曲ではありません。
- 曲の形式は何ですか?
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一般的には8小節ずつのAABAによる32小節形式です。Aの主題が二回続き、Bのブリッジで展開し、最後にAへ戻ります。この32小節を一コーラスとしてソロを展開できます。
- 歌詞はありますか?
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あります。A列車に乗ってハーレムへ向かう内容で、複数の歌詞の形や歌手による変更があります。ベティ・ロッシュ、エラ・フィッツジェラルドなどの録音で、器楽版とは異なる表情を聴けます。
- 最初にどの録音を聴けばよいですか?
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1941年2月のデューク・エリントン楽団によるオリジナルRCA録音が基準です。次に1942年のベティ・ロッシュ版、1957年のエラ・フィッツジェラルド版を聴くと、器楽、歌詞、スキャット、新アレンジの違いが分かります。
ビッグバンドへの入口
「A列車で行こう」は、ビリー・ストレイホーンが作曲し、デューク・エリントン楽団が1941年からテーマ曲として広めたジャズ・スタンダードです。ニューヨークの地下鉄A系統とハーレムへの道案内が題名の背景にあり、都市を進むような軽快さを持っています。
魅力は有名な旋律だけではありません。レイ・ナンスのミュート付きからオープンへ変わるトランペット、サクソフォン群の背景、金管のアクセント、音量を抑える終結が、短い録音の中で明確に配置されています。32小節AABA形式を知れば、テーマからソロ、再びテーマへ戻る流れも追いやすくなります。
まず1941年録音で全体の勢いを感じ、次に音色、最後にフォームを聴いてください。その後、ベティ・ロッシュとエラ・フィッツジェラルドの歌唱版へ進むと、同じ曲が演奏者と時代に合わせて変化する様子が分かります。明快な構成と弾むスウィング、個性的な奏者を生かす編曲がそろっているからこそ、この曲はビッグバンド・ジャズを知る入口として今も機能しています。


